トランプ大統領がFRBのクック理事解任を発表、FRBに対する影響力がさらに強まる可能性も

(米国)

ニューヨーク発

2025年08月27日

米国のドナルド・トランプ大統領は8月25日、自身のSNSで連邦準備制度理事会(FRB)のリサ・クック理事を解任すると発表した。大統領によるFRB理事の解任は史上初。連邦準備法では、「各委員は、大統領により正当な事由によって解任される場合を除き、前任者の任期満了から14年間在職するものとする」(注)と定められており、解任はこれを根拠とするもの。連邦住宅金融局が、「クック理事がミシガン州とジョージア州の2カ所で住宅を購入するにあたり、いずれも居住用として申請し、両方とも居住用の低金利で住宅ローンを契約した可能性がある」として、虚偽申告の罪で刑事告発しており、トランプ大統領はこれが「金融規制当局としての能力と信頼性に疑問」とし、解任の「正当な事由」に当たると判断したとのことだ。

しかし、クック理事に対する嫌疑が「正当な事由」に該当するかどうか、実際に解任できるのかについては疑問視する声も多い。過去の最高裁判決などから、「正当な事由」に当たるものとしては、一般的に不正行為ないし職務怠慢を意味するものと解釈されているが、クック理事の嫌疑はいまだ立証されていない。このことから、クック理事は今回のトランプ大統領による措置に対し、理事を辞任する考えがないことをあらためて表明するとともに、弁護士を選任し、法的に争う考えを示している。

先行きは不透明なものの、仮にクック理事が解任され、トランプ大統領によって新たに後任者が選定される場合、その意向がFRBの方針により強く反映される可能性がある。1つには、FRB議長および副議長は理事の中から選任することとされているため、より自らの主張に近い者を正・副議長として選任することが可能となる。これに加え、FRB理事7人のうち過半数がトランプ大統領の求める利下げに親和的な者となる。7月の連邦公開市場委員会(FOMC、2025年7月31日記事参照)では、クリストファー・ウォラー理事、ミッシェル・ボウマン理事の2人が利下げを主張しているほか、任期途中で辞任したアドリアナ・クーグラー理事の後任として既にスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が指名されている。

FOMCは7人のFRB理事に加え、5人の地区連銀総裁が持ち回りで投票権を持つため、今回の措置によって直ちにFOMCで多数派が形成されるわけではないが、地区連銀総裁の人事は、FRB理事会の承認も得る必要があることから、トランプ大統領の影響力がさらに強まるとの指摘もある(ウォールストリートジャーナル8月25日)。FRBの規定では、地区連銀総裁は65歳を迎えるか、あるいは55歳以上で就任した場合には10年間の任期により退任することとなっており、これに照らした場合、ニューヨーク連銀のジョン・ウィリアムズ総裁、サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁、リッチモンド連銀のトーマス・バーキン総裁の3人が2028年に地区連銀総裁任期を終える見通しだ。

(注)連邦準備法422条による。

(加藤翔一)

(米国)

ビジネス短信 d5b04691da050091