ブラジルの労働訴訟件数が再び増加傾向、産業界が懸念を表明

(ブラジル)

サンパウロ発

2025年08月27日

ブラジル全国工業連盟(CNI)およびサンパウロ州商業連盟(FecomercioSP)は8月19日、ブラジルにおける労働訴訟件数の増加に対する懸念を示す共同声明を発表した。高等労働裁判所(TST)の統計によると、2024年の全国新規労働訴訟件数は211万8,515件となり、前年比15.0%増加した(添付資料図参照)。CNIおよびFecomercioSPは、現行の裁判制度では労働者側が敗訴しても裁判費用や企業側の弁護費用の負担を免れるケースが多く、根拠の乏しい訴訟が増加していると指摘。また、「訴訟リスクの高い環境では投資意欲が低下する」との懸念も示した。

現地紙「エスタード」(8月25日付)によれば、2017年11月の労働法改正により、敗訴した労働者が勝訴側の費用を負担する義務が導入されたが(2020年1月22日記事参照)、2021年10月の最高裁判所(STF)判決により、同義務は事実上無効化された(注1)。ロジェリオ・ネイバ労働判事は同紙のインタビューで、「敗訴しても費用を支払う必要がないことが、訴訟を起こすインセンティブになっている」と述べ、訴訟件数増加の要因としてSTF判決を挙げた(注2)。

一方、TSTは同紙の取材に対し、訴訟件数の増加は新型コロナ禍後の反動によるものであり、「2021年の最高裁判所の判決が労働訴訟件数の増加に影響を与えたとは断定できない」と因果関係を否定した。

(注1)STF判決により、低所得労働者は裁判費用や企業側の弁護費用の負担を免除されたが、低所得であることの証明義務が明確にされておらず、多くの裁判で証明不要との解釈が採用された。2024年12月にはTSTがこの解釈に拘束力を持たせる判決を下し、訴訟のハードルがさらに低下した。なお、2022年4月にはSTFにおいて証明義務の有無に関する別訴訟が提起されているが、判決はまだでていない。

(注2)TSTの統計によると、2017年の労働法改正直後の2018年には全国新規労働訴訟件数は前年の263万844件から173万703件に急減したが、2021年以降は増加傾向にある(添付資料図参照)。

(エルナニ・オダ)

(ブラジル)

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