汚職対策機関の独立性を回復する法案が成立
(ウクライナ、EU)
調査部欧州課
2025年08月05日
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は7月31日、汚職対策機関の独立性を回復する法案に署名した(8月1日発効)。これに先立つ7月22日、ゼレンスキー大統領は、汚職対策機関の国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察(SAPO)の権限を縮小する法案に署名していた。この法律は汚職対策機関の独立性を損ない、EU加盟に向けたウクライナのあらゆる改革の実績を損なうものとして、国内外から批判や懸念の声があがっていた(2025年7月30日記事参照)。
ウクライナ国内では7月31日の最高会議での新法案の審議に向けて、30日からキーウやリビウ、ザポリージャやオデーサなどの複数の都市で、新法案を可決し、NABUやSAPOの独立性の回復を求めるデモが行われていた。
最高会議の審議で、新法案は賛成331票、反対0票、棄権9票で可決された。ゼレンスキー大統領は署名後のビデオ演説で、新たな法律は汚職対策機関の独立性を保証するものであるとし、外部からの影響や干渉を排除するため、国家機密にアクセスする、または、ロシアに親族がいる法執行機関の職員に、定期的なポリグラフ検査(注)を実施するなどの措置を説明した。また、ウクライナは民主主義国家であり、大切なことは、国民の意見を聞くことであると述べ、新法が民意を反映したものであることを強調した。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は7月31日、自身のSNSで、新たな法律を歓迎するとともに、ウクライナの法の支配と汚職対策の改革は、EU加盟に必要不可欠で、継続されなければならないとコメントした。
欧州委のギヨーム・メルシエ報道官は、ウクライナが特に迅速に実施すべき改革として、経済犯罪の取り締まり機関である経済安全保障局(ESBU)の長官の迅速な任命、司法人事の中枢機関である高等裁判官資格審査委員会(HQCJ)における国際専門家の復帰、刑法改正案の撤回などを挙げた。
ESBU長官の任命を7月末までに実施することがIMFによる拡大信用供与措置(EFF)の資金拠出のためのベンチマークの1つだったが、遅れが指摘されていた。ユリア・スビリデンコ首相は8月1日、自身のSNSで、6月末に選考委員会が選出した元NABU捜査官のオレクサンドル・ツィビンスキー氏と面談し、翌週には適切な決定ができることを期待している、と進捗を説明した。
(注)生理反応の変化を基に、被験者の認識を確認する検査。
(柴田紗英)
(ウクライナ、EU)
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