汚職対策機関の権限縮小法に国内外から非難と懸念
(ウクライナ、EU)
調査部欧州課
2025年07月30日
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は7月22日、国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察(SAPO)の権限を縮小する法案に署名した(7月23日発効)。これにより、検事総長はNABUの検事に対し、拘束力ある指示や管轄事件の他機関への移管、弁護側の要求に応じた政府高官に対する捜査の打ち切り、SAPO長官の検察グループへの所属権利の撤回およびその決定などの権限を得る。
NABUとSAPOは同日、同法案は両機関の独立性を損なわせ、SAPO長官は名目上の役割のみの存在となるとし、最高会議(国会)に対し、同法案を支持しないよう求めていた(7月22日付公式声明)。国民からも非難が集まり、7月22日から数日間にわたり、キーウ、リビウ、ドニプロ、オデーサなどの複数都市で、数百人から数千人規模のデモが行われた。
欧米や国際機関からも、同法案はウクライナのこれまでの改革の結果を失わせ、EU加盟やパートナーからの資金援助を危ぶませるとして、懸念の声があがっている。
ウクライナの汚職対策は、パートナー国・機関から支援を受けるのに不可欠な要素だ。複数の報道によると、欧州委員会のギヨーム・メルシエ報道官は7月25日、ウクライナ・ファシリティー(2024年2月6日記事参照)に基づくウクライナへの4回目の資金拠出が、EU加盟に向けた改革の遅れにより、予定された45億ユーロから、30億5,000万ユーロに減額されると述べた。減額の要因となったのは、3つの改革〔a.地方分権化、b.高等汚職裁判所の裁判官の任命、c.国家汚職・犯罪獲得資産摘発・捜査・管理庁(ARMA)の改革〕だ。なお、ARMAの改革に関する法案は、7月27日に署名された。未実施の改革が12カ月以内に履行されれば、今回減額された資金は拠出される。
ゼレンスキー大統領は7月23日、法律の目的は、汚職対策機関に対するロシアの影響を排除することと釈明した。国内外の批判や懸念を受け、ゼレンスキー大統領は同日、NABU、SAPO、国家汚職防止庁、検事総長など関係組織と協議を行い、ウクライナの法の支配の強化のための行動計画を作成することに合意した。
7月24日には、汚職対策機関の独立性を守り、法執行機関へのロシアからの影響や干渉を排除するための新たな法案を提出した。これに対し、NABUはSNSで25日、(新たな法案は)NABUとSAPOの訴訟手続き上の権限や独立性が回復させるとし、歓迎した。同法案は、31日に審議される見込み。
(柴田紗英)
(ウクライナ、EU)
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