7月の米雇用統計、労働市場の減速が顕著に、金融政策判断への影響も
(米国)
ニューヨーク発
2025年08月04日
米国労働省は8月1日、2025年7月の雇用統計を発表した。失業率の上昇や、非農業部門新規雇用者数の大幅な低下など、労働市場の減速を顕著に示す内容となり、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策判断への影響も大きいとみられる。
就業者数(前月差26万人減)、失業者数(同22万1,000人増)、労働参加率(62.2%、前月から0.1ポイント低下)を踏まえた失業率は4.2%となった(添付資料表1、図1参照)。外国生まれ労働力の減少や労働参加率の低下などにみられるように労働供給が減少しているにもかかわらず、これを上回る水準で労働需要が低下した結果、失業率が上昇するかたちとなり、労働市場の減速傾向が強く感じられる。また、広義の失業率も7.9%に上昇、平均失業期間も24.1週と2022年4月以来の高水準になった。
非農業部門の雇用者数の伸びは7万3,000人増と、市場予想(10万6,000人増)を大きく下回った。また、5月、6月について、ともに10万人超の下方改定がされた(添付資料表2、図2参照)。これにより、3カ月移動平均では、7月は3万5,000人増と新型コロナ禍以降の最低値を記録した。7月の連邦準備制度理事会(FRB)連邦公開市場委員会(FOMC)の労働市場に関する判断(2025年7月31日記事参照)の根拠の1つとなっていた数値は、3カ月移動平均で15万人という水準であり、今回の結果はここから大きく乖離するものとなった。
内訳では、政府部門が1万人減で、これは主に連邦政府の人員削減によるもの。民間部門は8万3,000人増だった。民間部門では、教育・医療サービス業(7万9,000人増)、小売業(1万6,000人増)、金融業(1万5,000人増)などが中心だった。小売業は新学期商戦に伴う一時的な雇用とみられる。それ以外の業種では、製造業や卸売業、対事業所サービスなどマイナスになる業種も複数みられ、総じて低調な内容だ。
賃金の伸びは、平均時給は36.4ドル(前月36.3ドル)で、前月比0.3%増(前月0.2%増)、前年同月比3.9%増(前月3.8%増)だったが、業種によるばらつきが大きい。業種別にみると、前月比では製造業や建設業、娯楽・接客業などで賃金の伸びが低下し、労働需要の弱含みの動きと一致する。また、6月はインフレ率上昇によって実質賃金(注)の伸びがわずかながらマイナスになり、今後の関税引き上げに伴うインフレへの影響が懸念される中で、こうした状況が継続し、消費に近い部門の労働需要を下押しする可能性もある。
以上のように、7月の雇用統計は失業率、新規雇用者数ともに悪い内容といえる。また、今後も、前日に発表されたチャレンジャー&グレイ社のレポートにおいて、関税引き上げや消費者による支出の抑制などにより、レイオフが進展する可能性が示唆されるなど、さらなる軟化の兆しもみられる。これまでFRBが利下げ判断を急がない理由の1つに労働市場がある程度の堅調さを維持していることがあったが、今回の結果はインフレと労働市場減速のリスク・バランスに一石を投じるものとなりそうだ。シカゴ・マーカンタイル取引所の調査
では、今回の結果を受けて9月に利下げが行われると予想する者が急増した。
(注)ここでは、平均時給の伸びと消費者物価指数(CPI)上昇率(いずれも前月比ベース)の差を指す。
(加藤翔一)
(米国)
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