欧州委の2024年の通商防衛措置報告書、EUの利益擁護に積極的な姿勢が鮮明に
(EU、中国)
ブリュッセル発
2025年08月12日
欧州委員会は7月28日、通商防衛措置に関する年次報告書を発表した(プレスリリース)。EUは2024年、前年より13件増の199件の通商防衛措置〔7件の暫定アンチダンピング(AD)措置を含む〕を実施していた。最終措置の内訳は、AD措置124件、補助金相殺関税(CVD)措置22件、反迂回調査によるAD措置およびCVD措置の拡大適用がそれぞれ38件と7件、セーフガード措置1件だった。欧州委は措置の実施により、2024年12月までに前年(約50万件)を大きく上回る約62万5,000件のEU域内の直接雇用が維持され、特に中国製バッテリー式電気自動車(BEV)に対するCVD措置(2024年11月6日記事参照)は約11万5,000件の雇用を守ったと効果を強調した。
EUが2024年に通商防衛措置の導入を念頭に開始した調査は33件と、2006年以降で最も多く、前年の12件からも大幅に増加した。新規調査の対象分野で最も多かったのは化学品(12件)で、全て中国製品を対象としたものだった。対象国別・地域では、中国が20件と最も多く、続くインド(3件)や台湾、韓国(それぞれ2件)と比較し圧倒的に多かった。
欧州委は2024年10月以降、最終または暫定措置開始前の急激な輸入増加の検知や関税の遡及(そきゅう)徴収を視野に入れ、全てのADおよび反補助金調査の対象製品の輸入登録を義務化している。過剰生産を含む不公正な商慣習に対抗し、域内事業者の利益擁護やEUおよびWTOルールの徹底を目指す欧州委の積極姿勢がうかがえる。
貨物の積み替えなどによる関税逃れの撲滅に向け、反迂回調査にも引き続き注力し、例えばロシア産バーチ(白樺)合板に対するAD措置をトルコとカザフスタンに拡大適用した。
報告書は、中国製BEVに対するCVD措置について1章を割いて言及し、中国と交渉継続中の最低輸入価格を設定する価格約束について(2025年6月16日付地域・分析レポート参照)、現時点で合意していないと述べた。中国が同措置に対抗して実施中の一部のEU産ブランデーへのAD措置およびEU産の豚肉と乳製品に対する調査(2024年12月19日付地域・分析レポート参照)は不当かつ「手段の悪用」と批判し、WTOの紛争解決手続きなどを通じ、域内事業者の利益を擁護するとした。
こうした域外国によるEUまたは加盟国を対象とする通商防衛措置は、2024年は前年より8件減の168件だったが、2024年に新たに採択された措置は17件と、前年から6件増加した。新規調査の件数も2023年から14件増え、2024年は34件だった。
(滝澤祥子)
(EU、中国)
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