7月のインフレ率は前年同月比1.55%に低下、物価安定目標の下限下回る
(インド)
ムンバイ発
2025年08月20日
インド統計・計画実施省(MoSPI)が8月12日に公表した7月の全国ベースの消費者物価指数(CPI、注1)は196.0ポイント(速報値)となり、前年同月比の上昇率は1.55%にとどまった。2017年6月の1.46%以来約8年ぶりの低水準で、6月(2.10%)から0.55ポイント縮小した。インフレ率低下は9カ月連続で、物価上昇圧力の鈍化が一段と鮮明になっている(添付資料図参照)。この水準はインド準備銀行(RBI、中央銀行)の物価安定目標(4%±2%)の下限を下回っており、許容レンジ割れは2020年9月以来となる。
全体の押し下げ要因となったのは食品価格の下落で、食品のインフレ率(注2)は前年同月比マイナス1.76%と、6月(マイナス1.01%)からさらに低下幅を広げた。特に野菜はマイナス20.69%、豆類(パルス)はマイナス13.76%と顕著に下落した。野菜価格は2024年10月の42.18%をピークに、下落基調が続いている。地域別では都市部が2.05%、農村部が1.18%だった。
物価動向を受けた金融政策の見通しについては、見方が分かれている。地場の格付け会社ケアエッジ・レーティングスのチーフエコノミストのラジャニ・シンハ氏は、ロシア産原油への米国の2次制裁が主要輸入国のサプライチェーンを混乱させる可能性に触れつつも、足元では物価が落ち着いており、景気も底堅いとして、「経済成長が大きく鈍化しない限り、追加利下げは予想していない」と述べた。
一方、大手証券・資産運用グループ、アナンド・ラティ・グループのチーフエコノミスト兼エグゼクティブディレクターのスジャン・ハジラ氏は、7月のインフレ率が予想を下回ったことでRBIのインフレ見通しが下振れする可能性を指摘し、「追加利下げの公算が高まっている」と述べた。米国の関税がGDP成長率を30~40ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)押し下げる可能性を指摘しつつ、「低金利は市場に追い風となる一方、低インフレは名目GDPや企業収益、税収を抑制しかねない」と述べた(「ミント」紙8月12日)。
直近8月の金融政策決定会合(MPC)では政策金利(レポレート)を5.50%で据え置き、声明では成長支援と物価安定の両立を目指す姿勢を示した(2025年8月8日記事参照)。モンスーン期の降雨は平年並みに推移しており、農産物価格の安定化に寄与しているが、地域によっては降雨不足も見られ、今後の天候次第で2025年後半の物価や金融政策の方向性に影響を与える可能性がある。
(注1)全国ベースのCPIは、基準年の2012年を100とし、農村部と都市部の各CPIを加重平均したもの。
(注2)ここでは、CFPI(消費者食品物価指数)のインフレ率を記載。
(篠田正大)
(インド)
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