越境ECから現地化へ、中国EC大手・京東が欧州家電市場に本格進出

(ドイツ、中国)

ベルリン発

2025年08月07日

サターン(SATURN)やメディア・マルクト(MediaMarkt)などの家電小売店を傘下に持つドイツの家電量販大手セコノミー(注)は7月30日、中国のEC大手の京東(JD)との資本提携を発表した(プレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、ドイツ語)。両社は業務上の独立性を維持しつつ、戦略的パートナーシップを組むかたちとなる。京東は今後、公開買い付けでセコノミーの全株式の約32%を1株4.60ユーロで取得することが確定している。また、早ければ2026年にも上場廃止を目指すとの報道もある(「ハンデルスブラット」紙8月1日)。ただし、欧州委員会に審査される可能性もあり、その場合は完了まで一定程度の時間を要するとみられる。

この提携により、セコノミーは成長戦略を加速させ、欧州有数の家電分野のオムニチャネル(多角的販売)プラットフォームとしてさらなる地位強化を目指す。一方、京東は、セコノミーが保有する欧州11カ国、1,000超の実店舗ネットワークと販売網を獲得し、越境ECにとどまらない本格的な現地展開へと移行する方針を示している。

セコノミーの最高経営責任者(CEO)のカイ=ウルリッヒ・ダイスナー氏は、欧州の取引基盤の強化に京東は最適なパートナーだと述べている。京東創業者の劉強東氏は「当社は(中国大手ECプラットフォームの)Temu(テム)やSHEIN(シーイン)のような低価格一辺倒の越境ECとは一線を画し、物流や雇用、店舗網、調達の全てで現地化を重視する」と語り、両社の対等な関係を強調している(「フランクフルター・アルゲマイネ」紙7月31日)。さらに、京東は今後3年間で約1,000に及ぶ海外ブランドの中国市場進出を支援し、合計売上高100億元(約2,100億円、1元=約21円)を達成する「100億成長プラン」を打ち出した。欧州と中国を結ぶ双方向の市場展開を強化する構えだ。

ドイツの中国研究機関MERICSによると、2024年の中国の対EU・英国直接投資は100億ユーロに達し、前年比で47%増となり、2016年以来の増加に転じた。ドイツは投資先としては、コストや規制の面で他国に後れをとりつつあるものの、今回の業務提携は、中国企業が欧州市場に進出を本格化させる象徴的な動きとしても注目されている。

(注)セコノミーは、カーステン・ウィルトベルガー連邦デジタル化・国家近代化相が最高経営責任者(CEO)を務めていた企業でもある(2025年5月13日記事参照)。

(打越花子)

(ドイツ、中国)

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