メルツ政権発足100日、投資加速を強調も、評価は割れる

(ドイツ)

ベルリン発

2025年08月25日

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相率いる新政権は8月13日、発足から100日を迎え、政府は「第一歩は踏み出した」と題する総括を公表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、ドイツ語)。投資や成長戦略の基盤整備を進め、秋以降はプランの実現を加速するとした。

政府はこの100日間で、総額5,000億ユーロのインフラ・気候特別基金を創設し、道路や鉄道、デジタル、教育、医療、気候対策への長期投資を計画した(2025年3月24日記事参照、注1)。さらに、期間限定の設備投資の定率減価償却を7月1日から導入し、2028年からは法人税の段階的引下げも確定している(2025年7月22日記事参照)。

一方、施策ごとに進捗は異なり、次の事項は閣議決定済みを含め、今後の法制化や議会審議を要する段階にある。

  • エネルギー分野:2026年からの一般家庭向けガス貯蔵賦課金の廃止、送電網料金の引き下げ、製造業と農林業向けの電力税軽減の恒久化
  • 移民政策:国籍取得までの最短在留期間3年措置の廃止(在留期間5年での国籍取得措置は継続)
  • 住宅市場対策:住宅建設加速措置(いわゆる「Bau-Turbo」)
  • 社会政策:年金給付水準48%の維持、出産時期によって不平等が生じていた子育て期間の年金加算措置対象期間の調整

産業界は方向性を評価も、具体案の迅速な実現要請

ifo経済研究所は7月29日~8月5日に経済学者170人に対し、政府の政治経済方針に関するアンケート調査を実施し、42%が否定的、25%が肯定的、32%が中立と評価した。公共投資や防衛強化を前向きに評価しつつ、社会保障改革や構造改革、官僚主義削減の不足、気候政策の進展が止まっていることを課題と指摘した。短期的には景気下支え効果を認める一方、中期的な成長押上げ効果は見解が分かれた。

また、産業界は政策方向を評価しているが、ドイツ産業連盟(BDI)は構造改革と官僚主義削減を、連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)は発電能力の拡大とその枠組み整備を要請している。中小企業連盟(BVMW)は「100日間の評価は黄色信号」とし、税制支援の前倒しや中小企業支援の迅速な実現を求めた。

ドイツ公共放送ARD・研究機関インフラテスト・ディマップが8月4日に発表した最新の世論調査によると、メルツ首相個人に対する支持率は32%と、近年の首相の中では最低水準となった(注2)。また、同首相が所属する連立与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の支持率も27%で、24%に支持率拡大の極右政党ドイツのための選択肢(AfD)と拮抗(きっこう)している。いずれの支持率も低水準にとどまっており、今後の推移が注目される。

(注1)インフラ・気候特別基金創設のための基本法(憲法に相当)改正案は、2月の総選挙の結果を受けた新連邦議会と新政権の発足前に、現連立与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が提出し、2021年に選出された連邦議会の特別議会で3月に審議・可決されていた。

(注2)同研究機関による過去3代の首相の就任後100日支持率は次のとおり。ゲアハルト・シュレーダー氏(63%)、アンゲラ・メルケル氏(74%)、オラフ・ショルツ氏(56%)(「フランクフルター・アルゲマイネ」紙8月13日)。

(打越花子、中山裕貴)

(ドイツ)

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