7月の米ISM製造業景況感指数、関税引き上げが雇用を下押し、コスト増消化の取り組みは継続
(米国)
ニューヨーク発
2025年08月05日
米国サプライマネジメント協会(ISM)は8月1日、7月の製造業景況感指数を発表した。製造業景況感指数は48.0と、前月から1ポイント低下し、ブルームバーグの市場予想(49.5)を下回った。
項目別では、指数の構成要素のうち、雇用(43.4)が特に大きな押し下げ項目で、雇用統計(2025年8月4日記事参照)でみられた労働市場の減速と一致する方向性だ。採用する、人員を削減するとの回答数の比は1対2と引き続き厳しい環境にあることが説明されており、後述のように関税引き上げに伴う事業への影響が今後さらに深化していく中で、雇用の低迷は継続する可能性がある。
他方で、受注(47.1、前月46.4)は基準値を下回ったもののわずかながら改善し、生産(51.4、前月50.3)は航空機などに牽引されるかたちで2カ月連続して基準値超え、供給(49.3、前月54.2)(注1)ではスピードの改善などの要素もみられた。もっとも、供給スピードの改善に関しては、「需要が減少する中でサプライチェーンのパフォーマンスが改善している」と説明されている。価格転嫁交渉の進展に伴う目詰まり感の解消・正常化に向けた動きも一部反映している可能性は否定できないものの、今のところ需要の弱さの影響の方が大きく、ポジティブな基調を示しているとまでは言い難いようだ。
また、指数の構成要素以外では、仕入れ価格(64.8、前月69.7)はなお高水準ながら、やや低下した。価格上昇を報告する企業の割合がやや低下(35.4%、前月45.6%)するなど、BtoBベースでの価格転嫁交渉が徐々に消化されはじめていることを示す一方で、引き続き物価上昇圧力は継続していることが示唆されている。
企業のコメントでは、「関税戦争はわれわれを疲弊させ始めている。将来の見通しは全く不透明で、この数カ月間は、全ての状況がどうなるのか、そして事業にどのような影響があるのかを把握するのに苦労している。今のところ、莫大(ばくだい)な予想外のコストが発生している」(衣類・皮革)、「米国内外から調達する原材料および部品に対する関税の上昇の影響を受けており、第2四半期に新たな関税および高関税で調達した在庫を消費するか、米国内供給源からのコストを更新するため、第3四半期および第4四半期には費用が増加すると予想している」(一般機械)など、関税引き上げの事業への影響が今後さらに本格化することを示唆する内容が多く見られた。
業種別では、景況感が拡大と回答した業種は全体で7業種、縮小と回答した業種は10業種だった(注2)。
(注1)50を上回ると供給スピードの遅延、50を下回ると改善を示す。供給スピードの遅延は商品の動きの多さを示すので、指数として景況の良さを表す。
(注2)拡大と回答した業種は、衣類・皮革、プラスチック・ゴム製品、非金属鉱物、繊維、その他製造業、家具、一次金属。縮小と拡大した業種は、印刷、紙製品、化学、一般機械、木材製品、金属加工、コンピュータ・電子製品、輸送機器、電気機器、食品・飲料・たばこ。
(加藤翔一)
(米国)
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