トランプ米政権、ウイグル強制労働防止法の優先執行対象に5分野追加、鉄鋼・銅・リチウムなど
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年08月20日
米国国土安全保障省(DHS)は8月19日、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)の優先執行対象分野に鉄鋼、銅、リチウム、苛性ソーダ、ナツメの5分野を追加したと発表した。
UFLPAは2021年12月に成立し、2022年6月に施行した法律で、(1)中国の新疆ウイグル自治区で物品を採掘・生産・製造した場合、または(2)UFLPA上の事業体リストに掲載される144の企業や団体が物品の生産などに関与した場合、強制労働の利用があるとみなし、米国への輸入を原則禁止する。
UFLPAに基づく輸入差し止めなどの措置の執行対象は全ての産業分野に及ぶが、DHSはこれまでにサプライチェーンやサプライヤーでの強制労働のリスクが高く、重点的に措置を執行する産業分野として、(1)アパレル、(2)綿・同製品、(3)ポリシリコンを含むシリカベース製品、(4)トマト・同製品、(5)アルミニウム、(6)ポリ塩化ビニール、(7)水産品の7分野を指定していた。今回、DHSが同執行戦略を更新し、(8)鉄鋼、(9)銅、(10)リチウム、(11)苛性ソーダ、(12)ナツメの5分野を追加したことで、優先執行対象分野は12分野となった。
DHSのクリスティ・ノーム長官は今回の発表に際して、「米国政府には、米国民に不利益を及ぼし、経済成長を阻害する不公正な貿易慣行など、米国の繁栄を危険にさらす脅威を排除する道義的、経済的、国家安全保障上の義務がある。トランプ政権は(その義務を果たすために)行動を起こしている」と述べた。ノーム長官の発言からは、強制労働を利用して生産された外国製品の輸入規制を通じて、基本的人権を保障する米国産業との競争条件を平準化し、米国の経済的利益を確保する狙いがうかがえる。
米国税関・国境警備局(CBP)は7月末までに、同法に基づいて37億ドル相当、1万6,755件の貨物の輸入を差し止めた。トランプ政権下の月単位の執行金額や件数はバイデン前政権下から減少しているものの、措置の執行自体は継続している。中国に対抗して米国の利益を確保する手段の1つとして、UFLPAの執行は今後も継続するとみられる。
トランプ政権の「ビジネスと人権」に関する政策の展望は、2025年5月9日付地域・分析レポート参照。また、UFLPAの概要や動向については、ジェトロのUFLPA特集ページも参照。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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