欧州議会、森林破壊防止デューディリジェンス規則の実施規則撤回を求める動議を採択

(EU)

ブリュッセル発

2025年07月14日

欧州議会は7月9日、森林破壊リスクの国別レベル分けに関する実施規則の撤回を求める動議を賛成多数で採択した。

同実施規則は、適用延期により2025年末からの適用開始が予定されている森林破壊防止規則(EUDR、2024年12月5日記事参照)に基づくもの。森林破壊リスクのレベル分けを行うベンチマークシステムを構築した上で、EU内外の国を「高リスク」あるいは「低リスク」(とそれ以外の標準リスク)に分類する。高リスク国からの対象製品の輸入に対しては監視を強化する一方で、低リスク国からの輸入についてはデューディリジェンス義務を簡略化する。欧州委は5月に実施規則を採択したが、高リスク国の指定はベラルーシ、北朝鮮、ミャンマー、ロシアのみだったことから(国別のレベル分けはAnnex外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照)、現実のリスクを反映していないとして批判を浴びていた。

動議は、実施規則の撤回を求めるとともに、最新データに基づくようベンチマークシステムを見直すこと、また現行の国別だけでなく地域別のレベル分けを認めることなどを求めている。

動議を主導した中道右派の欧州人民党(EPP)グループは、実施規則は実態に即しておらず、事業者に不要な負担を強いるものだと批判。デューディリジェンス義務を大幅に緩和する「リスクなし」という新たな区分を加えるべきだとしている。ただし、「リスクなし」を追加する修正案は、社会・民主主義進歩連盟(S&D)グループ(中道左派)や欧州刷新(Renew)グループ(中道)などにより2024年に1度否決されている(2024年11月18日記事参照)。

S&DやRenewなどは、実施規則を速やかに見直す必要があるとする一方で、今回の動議の真意はEUDRの適用開始のさらなる延期にあるとして、実施規則の撤回には反対している。

半数以上の加盟国もEUDRの大幅な簡素化を求める

18の加盟国(注)は連名で、EUDRはさらなる簡素化が必要であることから、適用開始を再度、延期すべきとする書簡を欧州委員会に送った。欧州委は既に法改正を伴わない簡素化を実施しているが(2025年4月17日記事参照)、それでも軽微なリスクしかない国の事業者に対し過剰な義務を課していると指摘。EUDR対応により、原材料費などの高騰が予想されるほか、EU域内の事業者が域外に製造拠点を移す可能性もあると強調する。低リスク国については、当該国の国内規制への対応で十分とし、過剰なデューディリジェンス義務を撤廃するなど規制負担の大幅な軽減を求めた。背景には、EU加盟国は全て低リスク国に指定されていることがあるとみられる。

欧州委は欧州議会の動議に従う法的義務はないものの、事業者に対する義務の軽減を求める動きは強まっており、欧州委の今後の対応に注目が集まっている。

(注)オーストリア、ブルガリア、クロアチア、チェコ、エストニア、フィンランド、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、スウェーデン。

(吉沼啓介)

(EU)

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