欧州委、2030年までにEUの主導的地位の確保目指すライフサイエンス戦略発表
(EU)
ブリュッセル発
2025年07月10日
欧州委員会は7月2日、2030年までにEUをライフサイエンス分野のバリューチェーンで最も優れた地域とすることを目指す戦略を発表した(プレスリリース)。今回の戦略は、バイオ産業政策(2024年3月25日記事参照)を土台に、対象をバイオ技術から食品、ヘルスケア、医薬品、環境など幅広いライフサイエンス分野に拡大した上で、研究開発から実用化や普及までバリューチェーン全体の支援をまとめた政策文書だ。
ライフサイエンス産業はEU全体のGDPの9.4%を占め、成長率も5.3%とEU経済の成長率を上回る。また、研究開発への投資も進んでおり、2022年の投資額は466億ユーロで、EU域内の研究開発費の19.4%を占めている。一方で、バイオ技術特許の取得を国別でみると、EU(全体の18%)は米国(39%)に次ぐ2位であるものの、その差は大きく、3位の中国(10%)に追い上げられつつある(2024年3月28日記事参照)。
そこで、戦略は2030年目標の実現に向け、(1)ライフサイエンス分野の研究開発エコシステムの最適化、(2)規制環境の改善による革新的技術の市場アクセスの確保、(3)革新的技術の活用と普及からなる政策を提案する。
(1)については、複数国での臨床試験に対するEUレベルや加盟国レベルでの財政支援を調整し、研究インフラを強化する臨床研究投資計画を2026年中に策定する。医薬品分野では、遺伝子治療医薬品や体細胞治療医薬品などの先端医療医薬品(ATMP)に優れた実績を持つ研究機関のネットワークを構築する。
(2)に関しては、ライフサイエンス分野の規制上の課題や投資ニーズを考慮しつつ、バイオマスの持続可能な供給を確保し、革新的技術の開発と普及を加速させるべく、バイオエコノミー戦略を2025年中に発表する。また、研究開発に関する規制環境を改善し、研究者や投資家を呼び込むとともに、スタートアップなどによる製品化を容易にすることを目指すバイオ技術法案を遅くとも2026年中に提案する。革新的な医薬品の開発とより迅速な承認を可能にするための医薬品規制の簡素化法案も提案する。
(3)については、2026年までに発表が予定されている公共調達指令の改正案や、欧州イノベーション法案に、革新的技術の普及に向けた施策を盛り込む。
(吉沼啓介)
(EU)
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