欧州委、域内のバイオ産業強化策をまとめた政策文書を発表

(EU)

ブリュッセル発

2024年03月25日

欧州委員会は3月20日、EU域内におけるバイオ技術およびバイオものづくり(バイオ技術を活用してバイオ由来製品を製造する産業領域)の強化に向けた政策文書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。バイオ産業は域内で最も成長している産業の1つであり、バイオ由来原材料は、生分解性、エネルギー効率、循環性などの利点が多いとして、化学品、繊維製品、農産品など幅広い分野での応用が期待されている。EUはバイオ技術を、経済安全保障上の重要技術に位置付けており(2023年10月6日記事参照)、域内産業の財政支援策「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)」の支援対象にも指定している(2024年2月15日記事参照)。

一方で、バイオ産業は米国が世界市場のシェア6割を占め、EUは1割強にとどまる。域内での研究成果の多くが商品化に結び付いておらず、米国に大きく後れを取っているのが現状だ。そこで、今回の政策文書は、域内のバイオ産業を強化すべく、課題を分析した上で、欧州委が今後実施する政策を提示する。

欧州委が課題として挙げるのは、域内における資金調達の難しさや規制の複雑さだ。バイオ産業は技術競争が激しく、製薬やデジタル機器以上に集中的な研究開発が求められる。最先端技術の開発には長期的かつ相当な投資が必要となるが、域内の資本市場は十分統合されておらず、バイオ産業企業は特に成長段階でベンチャーキャピタルからの資金調達が困難な状況だと指摘する。また、建設許可や環境影響評価など規制も多く、許認可に時間を要する点も問題視する。

欧州委が実施する主な政策は次のとおり。

  • 域内における資金調達を容易にすべく、域内の資本市場の統合の深化に向けた調査を実施する。
  • 2025年半ばまでに迅速な許認可など規制緩和に向けた調査を実施し、バイオ技術法案の策定を検討する。
  • 成長段階での支援策として、規制枠組みや事業拡大に向け利用可能な支援に関する情報を提供する「EUバイオ技術ハブ」を2024年末までに設置すべく、取り組みを進める。
  • AI(人工知能)活用を加速させるべく、産業界向けの生成型AI活用促進策「GenAI4EU」(2024年2月1日記事参照)などにおいて業界関係者との意見交換を実施する。
  • バイオ由来製品の市場拡大には、化石燃料由来製品との比較において持続可能性の高さを示す必要があることから、両製品の環境影響の評価方法を、2025年をめどに開発する。また、割高なバイオ由来製品の需要喚起策として、バイオ由来原材料の使用要件を、エコデザイン規則案(2023年12月11日記事参照)に基づく持続可能性要件、あるいは公共調達要件に加えることが可能か、影響評価を実施し検討する。

(吉沼啓介)

(EU)

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