最低賃金を7月から3.5%引き上げ

(オーストラリア)

シドニー発

2025年07月02日

オーストラリアの労使裁定機関であるフェアワークス委員会(FWC)の決定により、7月1日から2025/2026年度(2025年7月~2026年6月)の最低賃金(NMW)が時給24.95オーストラリア・ドル(2,345円、豪ドル、1豪ドル=94円)、週給948豪ドルに引き上げられた。時給ベースでは、現在の24.10豪ドル(2024/2025年度)から3.5%の引き上げとなる。同時に、職業別に定められる労使裁定(アワード、注)に基づく最低賃金も同率で引き上げられた。

5月3日の連邦議会総選挙で政権2期目を獲得した労働党率いるアルバニージー首相にとって、引き上げ率は2022年の政権交代以来、最も低い水準となった。これは、総合インフレ率(2.4%)および基調インフレ率(2.9%)がオーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行、2025年5月26日記事参照)の目標圏内に収まったからだが、インフレ率を大きく上回る引き上げ幅となった。FWCは過去3回にわたり、インフレ上昇圧力への懸念から、物価上昇率に合わせた最低賃金の引き上げを見送った結果、実質賃金が低下したと指摘し、今回、インフレ率が落ち着いてきたことを受け、実質賃金の是正に努めるとした。連邦政府は「経済的に持続可能な実質賃金の引き上げ」を主張しており、アマンダ・リシュワース雇用・労使関係相も、インフレ率を上回る賃金引き上げについて、政府が求めていた内容と一致することを認めている。

一方、財界団体オーストラリア産業グループ(Ai Group)最高経営責任者(CEO)のインネス・ウィロックス氏は「2.6%を超える提案は全く正当化できない」と反発した。雇用側は、インフレ率に近い引き上げ率にとどめるよう求めていた。同じく7月1日から、法人が負担する各社員のスーパーアニュエーション(企業退職年金基金)拠出率が11.5%から12%へ引き上げられ、また労災保険料・給与税といった雇用にかかるコストの増加も伴うため、賃金上昇の影響は大きい。

アルバニージー首相は、連邦政府選挙期間中の公約の柱の1つとして生活費高騰対策を掲げており、インフレ率を上回る今回の最低賃金の引き上げはその実現ともみられる。

(注)フェアワーク委員会(FWC)が特定の業界や職種ごとに労働条件を定めたもので、賃金や労働時間、各種手当などが規定されている。

(伊東佐和子)

(オーストラリア)

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