米エネルギー省、自動車のGHG規制効果に批評的報告書を公表

(米国)

ニューヨーク発

2025年07月31日

米国エネルギー省(DOE)は7月23日に公表した報告書「温室効果ガス(GHG)排出が米国の気候に与える影響に関する批評的評価PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」において、乗用車・小型トラックの二酸化炭素(CO2)排出削減による気候変動への影響は極めて限定的であるとの分析結果を発表した。同報告書などを根拠に、7月29日に米環境保護庁(EPA)は、GHGが公衆衛生に危険をおよぼすとした2009年の「危険因子判定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の撤回を提案しており、政府全体としてGHG排出規制の実効性を問い直す姿勢を強めている(2025年7月30日記事参照)。

報告書によると、2022年に米国で車両に起因したCO2の排出量は10億5,000万トンで、世界のエネルギー起源排出量(346億トン)の3.0%にとどまる。仮に米国の車両由来排出を全廃しても、大気中のCO2濃度の蓄積を100年間で1~2年遅らせる程度にしかならず、地球温暖化の進行抑制効果も、最大で約3%に過ぎないと指摘している。また、1979~2023年の気温上昇傾向についても、±15%の誤差範囲でしか測定できず、排出削減による影響は統計的に把握することは困難だという。また、洪水や干ばつなどへの二次的影響はさらに測定が困難だとされる。これらの分析結果から、自動車のGHG排出削減による気候リスクの緩和効果は限定的であると結論づけた。

「危険因子判定」の撤回提案に対しては、各所からコメントが寄せられている。全米トラック協会(ATA)のクリス・スピア会長兼最高経営責任者(CEO)は、バイデン前政権によるGHG排出規制について「トラック業界を経済的破滅へと導き、サプライチェーンをまひさせ、価格をつり上げるものだった」と述べ、事実上、電動トラック導入の義務化につながる規制の撤回を歓迎する姿勢を示した。

一方、自動車大手のフォードは、政府の取り組みを「現行の排出基準と顧客の選択の間の不均衡に対処するもの」と評価しつつも、「米国には、事業計画を後押しする単一の安定した基準が必要だ。その基準は、科学と顧客の選択に即し、炭素排出量を時間の経過とともに厳格化することで削減しつつ、米国の製造業の成長を実現すべきだ」とし、新たな基準策定を求める声明を発表した(「ワシントン・ポスト」電子版7月29日)。

環境関連の科学者や専門組織からは強い批判の声が上がっている。コーネル大学環境進化生物学部のロバート・ハワース教授は、「気候の混乱は化石燃料の使用と、CO2およびメタンの排出によってもたらされる致命的な問題だ。2009年に示された科学的根拠は今日さらに強固になっている」として、今回のEPAの方針を厳しく非難した(CBSニュース7月29日)。また、環境保護団体の自然資源防衛評議会(NRDC)のエグゼクティブ・ディレクターであるクリスティ・ゴルダフス氏は、EPAの動きを「科学を無視し、国民の安全を危険にさらすもの」と厳しく非難し、法的措置を辞さない構えを示している。

(大原典子)

(米国)

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