米相互関税、バングラデシュの縫製産業に大打撃の可能性
(バングラデシュ、米国)
ダッカ発
2025年07月14日
米国のドナルド・トランプ大統領は7月7日、バングラデシュ暫定政権のムハンマド・ユヌス首席顧問に書簡を送り、バングラデシュ製品の輸入に対して8月1日から35%(注)の相互関税を課すと明らかにした。トランプ大統領は書簡で「バングラデシュの関税・非関税政策、貿易障壁により生じた長期的かつ根深い貿易赤字から脱却する必要があるとの結論に達した。(中略)なお、35%という数値は、貿易赤字の解消に必要な値にははるかに満たない」と記述している。
バングラデシュ輸出振興庁(EPB)が公表する2024/2025年度(2024年7月~2025年6月)の国別輸出額によると、米国が最大の輸出先で、総額は86億9,235万ドル、全体に占める割合は18.0%となっている(添付資料表1参照)。シェイク・ボシール・ウディン商業担当顧問(大臣に相当)率いる交渉団が書簡の届いた後の7月9~11日に米国側と協議しており、追加関税率が今後変わる可能性はあるが、適用された場合バングラデシュの輸出産業へ大きな打撃を与えることになる。
バングラデシュの品目別輸出額を見ると、61類が43.8%(211億5,908万ドル)、62類が37.7%(181億8,789万ドル)を占め、8割以上が衣類・衣類付属品に分類されている(添付資料表2参照)。このため、35%の相互関税が賦課された場合、衣類・衣類付属品の米国向け輸出が減少し、同国の輸出額全体に影響が及ぶことが懸念される。
米国の小売り大手ウォルマートは、バングラデシュの衣料品メーカーのパトリオット・エコ・アパレルに発注した水着100万枚の生産を一部保留にしていると報じられている(「デーリー・スター」紙7月12日)など、相互関税は8月1日に適用開始予定だが、既に両国間の取引に影響を及ぼしているとみられる。バングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)のラキブル・アラム・チョウドゥリー元副会長は「ニットウエアの出荷が盛んになる夏季に受注が減少すれば、繊維工場の操業に支障をきたし、数千人の雇用を危険にさらす恐れがある」と述べた上で、「ヨルダン、エジプト、ケニア、エチオピアなどに課される関税率はバングラデシュに比べて大幅に低く、米国のバイヤーにとって魅力的な代替地となるだろう」と語り、相互関税の影響が一過性ではなく、繊維業界の生産拠点の移転をもたらし、バングラデシュの経済成長の基盤を脅かす可能性があると警鐘を鳴らしている(「ビジネス・スタンダード」紙7月12日)。
(注)トランプ大統領が4月2日に発表した大統領令では、バングラデシュ製品の輸入関税は37%としていた(2025年4月10日記事参照)
(片岡一生)
(バングラデシュ、米国)
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