欧州委、域内製造拠点の維持に向けた化学業界の支援計画と簡素化法案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2025年07月17日
欧州委員会は7月8日、域内の化学業界を支援すべく新たな行動計画を発表した(プレスリリース)。EU域内では、高止まりするエネルギー価格や原材料費、地政学リスク、市場の低需要などにより、過去2年間だけで20の域内主要製造拠点の閉鎖が発表されるなど、化学業界の競争力低下が指摘されている。そこで、欧州委は、域内製造拠点の維持と設備更新に向け、次の4つの柱からなる支援策を打ち出した。
- 域内製造拠点の維持に向けた支援策:欧州委は2025年末までに、加盟国や業界関係者と共同で重要化学品アライアンスを立ち上げる。同アライアンスは、域内バリューチェーンや脱域外国依存の観点から戦略上重要な製造拠点や化学品を特定するほか、欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)などによる財政支援に向け、EUと加盟国の投資方針を調整する。IPCEIについては、バイオ技術バリューチェーンと高度循環型材料に関するものが検討されている。
- エネルギー価格対策と脱炭素化支援策:欧州委は2025年末までに、加盟国が化学業界に対しEU排出量取引制度(ETS)適用による電力価格の値上がり分を補填(ほてん)できるようにすべく、国家補助ガイドラインを改定する。現行ガイドラインは化学業界を対象にしていないことから、有機化学品や肥料などをガイドラインの対象に加える。なお、クリーン産業ディール国家補助枠組み(2025年6月30日記事参照)に基づき、加盟国が電力価格を一部軽減することは既に認められている。また、2025年第4四半期にバイオ素材の開発や生産拡大に向けたバイオエコノミー戦略(2025年7月10日記事参照)を、2026年には2次原材料などの利用拡大に向けた循環型経済法案を発表する。このほか、プラスチックボトルのリサイクル材料含有要件におけるケミカルリサイクルの扱いを規定する使い捨てプラスチック指令の実施規則を2025年末までに採択する。
- 新技術市場の創出策:非化石燃料由来の原料や低炭素技術はオフテイカー不足から投資が進んでいない。そこで、欧州委は2025年第4四半期に発表予定の産業界脱炭素化促進法案に、域内調達要件や域外製品の域内シェアを一定以下に抑える強靭(きょうじん)性基準を盛り込む。
- 規制の簡素化:欧州委は、今回の行動計画と同時に、CLP規則、化粧品規則、肥料製品規則の一部を簡素化する法案を発表した。また、2025年末までに REACH規則の簡素化法案や環境関連規制の簡素化法案も発表する。
(吉沼啓介)
(EU)
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