ブラジル政府、自動車産業向け減税・免税措置を導入
(ブラジル)
サンパウロ発
2025年07月30日
ブラジル政府は7月11日、新自動車産業政策(MOVER、2024年1月15日記事参照)に関する詳細を規定した政令第12.549号を公布した。同政令により、車両の燃費効率やパワートレインなどの要件に応じて工業製品税(IPI)を調整する減税措置(通称:グリーンIPI措置)が導入された。適用期間は2025年11月1日~2026年12月31日(注1)。
グリーンIPI措置の下では、乗用車にかかるIPIの標準税率は6.3%、小型商用車は3.9%と規定されている。そのうえで、次の5項目に基づき税率が軽減または加重される(注2)。
- パワートレイン:ブラジル国内で最も普及しているフレックス車(注3)に対するグリーンIPI税率は従来のIPI税率と変わらない。ただ、電気自動車(BEV)、フレックス燃料ハイブリッド車(注4)、エタノール車などは、パワートレインに応じて標準税率から0.5~2.0ポイント軽減される。一方、ガソリン・ディーゼル燃料ハイブリッド車、ガソリン・ディーゼル車などは、乗用車の場合は標準税率から2.0~12.0ポイント、小型商用車で0.5~2.5ポイント加重される(注5)。
- 燃費効率:達成すべき燃費効率の基準に関する計算式が設定されており、基準達成で1ポイント、高基準達成で2ポイント軽減される(注6)。
- 出力:乗用車は72 キロワット(kW)未満で0.25~2.15ポイント軽減、105kW超で0.75~6.5ポイント加重される。小型商用車は85 kW未満で0.25ポイント軽減、132kW超で0.25~3.0ポイント加重される。
- 構造性能・運転補助装備:緊急制動信号システム(ESS)や、シートベルトリマインダー(SBR)などの構造性能・運転補助装備要求を満たす場合、標準税率から1ポイント軽減される(注7)。
- リサイクル率:新車生産台数の10台に1台の割合で使用済み自動車の解体費用を負担した場合、1ポイント軽減、5台に1台の割合で使用済み自動車の解体費用を負担した場合は2ポイント軽減される(注8)。
さらに、同政令により、燃費・環境性能に優れたブラジル製小型車に対するIPI免税措置(通称:サステナブル・カー)も導入された。適用期間は2025年7月11日~2026年12月31日。免税を受けるには、完成車メーカーが開発商工サービス省に申請し、次の4つの要件を満たす車種を登録する必要がある。
- 二酸化炭素排出量が1キロメートル(km)当たり83グラム(g)未満であること。
- 車両重量の80%以上が再利用・リサイクル可能な材料で構成されていること。
- プレス加工、溶接、塗装、組み立てなどの工程をブラジル国内で実施していること。
- 小型乗用車または小型商用車であること。
全国自動車製造業者協会(Anfavea)のイゴール・カルベ会長は、「ブルームバーグ・リネア」紙(7月21日付)のインタビューで「(新自動車政策の詳細が明らかになったことで)今回の政令により、自動車メーカーが今後もブラジルへの投資を継続できる」と述べ、IPI減税・免税措置を歓迎した。
(注1)MOVERは、脱炭素化と技術革新、研究開発、部品の現地生産を促進する目的で、2023年12月に導入された。なお、2023年12月公布の消費税制簡素化に向けた憲法改正法第132号により、2027年1月1日以降、IPIは事実上廃止される予定(2024年3月21日付地域・分析レポート参照)。
(注2)なお、軽減税率は0%を下回ることはない。本政令の対象となる乗用車および小型商用車は、付属書IにNCMコードベースで記載されている。NCMコードとは、メルコスール共通関税番号で8桁から構成されている。上6桁はHSコードと同じ。
(注3)フレックス車とは、ガソリンとバイオエタノールを混合・燃焼して走行する車。
(注4)フレックス燃料ハイブリッド車とは、電動機とフレックス内燃機関の動力を組み合わせた車。
(注5)各パワートレインの定義は、ブラジル技術規格協会により承認されたブラジル規格(ABNT NBR)に沿う。具体的には、ABNT NBR16567。詳細は政令第12.549号参照。
(注6)燃費効率の目標値は、政令第12.549号の付属書IIIで詳細に定義されている。目標値は車両の整備重量に応じて変動するが、「高基準」は「基準」よりも約5%厳しいエネルギー消費量(MJ/km)の達成が求められる。例えば、整備重量2,000kgの大型SUVの場合、「基準」(1ポイント減税)の目標値は約2.258 MJ/kmであるのに対し、「高基準」(2ポイント減税)の目標値は、より厳しい約2.141 MJ/kmとなる。
(注7)ESSは、走行中に急ブレーキをかけた際、後続車に緊急制動中であることを伝える装置。SBRは、シートベルトが装着されていない場合に運転者に警報する装置。
(注8)完成車メーカーは、自社の新車生産台数に応じて、一定の割合で廃車(使用済み自動車)を、責任をもって解体・リサイクル業者に引き渡し、スクラップ処理をすることを指す。完成車メーカーは、こうしたリサイクルコストを負担するが、その見返りとして自社の新製品が減税対象となり、価格競争力が高まるというメリットがあるとみられる。
(エルナニ・オダ)
(ブラジル)
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