アジア・エコノミック・サミット開催、政府系ファンドのダナンタラCIOが投資方針を紹介

(インドネシア、マレーシア、カタール)

ジャカルタ発

2025年07月03日

アジアのスタートアップやテクノロジー業界に特化したニュースメディア「テック・イン・アジア」は6月26日、インドネシア・ジャカルタで「アジア・エコノミック・サミット2025」を開催した(2025年7月3日記事参照)。

「政府系ファンドがアジアの未来に与える影響」と題したパネルディスカッションには、インドネシア政府系ファンド「ダナンタラ」(2025年3月3日記事参照)のパンドゥ・パトリア・シャリル最高投資責任者(CIO)、マレーシア政府系ファンド「カザナ・ナショナル」のヒシャム・ハムダンCIO、カタール投資庁(QIA)アジア・太平洋統括のアブドゥラ・アイ=クワリ氏が登壇した。

パンドゥCIOは、2025年2月に設立したダナンタラについて「当初は3人だったチームが、現在では160人にまで拡大した」と紹介した上で、同ファンドの使命を「石油・ガス、銀行、鉱業などの国有企業を競争力ある大企業へと育成し、それにより得られた配当を原資に国内産業の高度化を進めること」と強調した。また、投資方針として、(1)ビジネスとして成立していること、(2)インドネシア国内への技術移転があること、(3)インドネシア国民の利益につながること、を挙げた。

投資対象には債券やファンド・オブ・ファンズ(注1)も含まれ、得られた配当金は国家予算に組み込まず、ダナンタラに再投資されると説明した。さらに、投資判断においては「テールリスク(予測困難な極端なリスク)」を重視し、「損失の最小化を重視するため、大規模で安定したキャッシュフローを持つ企業への投資を好む」と述べた。

今後の重点投資分野として、(1)病院やクリニックなどの川下から治療薬などの川中にいたるヘルスケア分野、(2)ニッケルをはじめとした重要鉱物資源の下流化(注2)、(3)地政学リスクの低減を目的に輸入依存の削減を目指すエネルギー分野、の3つの領域を挙げた。

QIAのアブドゥラ氏は、2025年4月にダナンタラと共同で総額40億ドルの投資ファンドを設立したことを紹介。出資比率は50%ずつで、電気自動車(EV)およびバッテリーのサプライチェーン分野への投資を進める方針を示した。

カザナ・ナショナルのヒシャムCIOは、「インドネシアやマレーシアでは銀行の株式が株式インデックスで採用される銘柄の大半を占めているため、非銀行セクターの拡大が課題だ」と指摘。その上で、「政府系ファンドの役割は資本回収にとどまらず、若者の雇用創出など労働を含む生産要素にも恩恵をもたらすことが重要だ」と強調した。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

(注1)運用機関が複数の投資信託を組み合わせて、1つの投資信託にまとめたもの。分散投資されている投資信託を組み合わせることで、よりリスクを抑えられる点などがメリットとされる。

(注2)サプライチェーンの川下を含めた高付加価値化のこと。インドネシア政府は「下流化」という単語を多用する。

(大滝泰史)

(インドネシア、マレーシア、カタール)

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