欧州委、2040年の温室効果ガス排出削減目標を1990年比で90%減とする法案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2025年07月08日
欧州委員会は7月2日、EU全体の温室効果ガス(GHG)排出量を2040年までに1990年比で90%削減する法案を発表した(プレスリリース)。2050年までの気候中立の実現を法制化する欧州気候法を改正するもの。2040年目標は、1990年比で55%削減という2030年目標(2021年4月22日記事参照)に続く新たな中間目標となる。
欧州委は、第1次フォン・デア・ライエン体制において、欧州グリーン・ディールのもと、2030年目標の達成に向けた政策パッケージ「Fit for 55」を提案した(2024年5月28日記事参照)。一方で、第2次フォン・デア・ライエン体制の発足以降は、域内産業の停滞が指摘される中で、グリーン・ディールから競争力強化に政策上の優先課題を転換している。ただし、欧州委はグリーン・ディールの看板自体は下ろしておらず、競争力を強化しつつ脱炭素化も目指すクリーン産業ディール(2025年3月4日記事参照)を推進している。
欧州委は、こうした政策上の変化を受け、2040年目標案の達成に向け「現実的かつ柔軟な」アプローチを打ち出す。特に議論を呼んでいるのは、EU域外のカーボンクレジットの活用だ。適用期間を2036年以降とし、適用上限を1990年時のEU全体のGHG排出量の3%にするなど限定的な活用ではあるものの、域外のGHG排出削減分を2040年目標案の達成に計上することを認める。ただし、域外カーボンクレジットの活用については、欧州科学諮問機関(注)が、部分的であっても域内経済のクリーンエネルギーへの転換に必要な資金を域外投資に組み替えることは域内の投資環境に悪影響を与えるとして、反対を表明。GHG排出削減目標の実質的な引き下げは、クリーンテックの技術革新に基づく長期的な競争力強化にも寄与しないとした。
法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。政治専門紙「ポリティコ」によると、90%減という2040年目標案について、無条件での賛成はスペインなど一部の加盟国に限られ、ドイツなどの多くの加盟国は域外カーボンクレジットの活用などの条件付きで賛成。イタリアやポーランドは90%減という数値目標自体に反対している。
なお、法案には2040年目標案の達成に向けた具体的な政策は含まれていない。欧州委は法案の成立後に、「Fit for 55」に続く2030年以降の政策枠組みを策定するとしている。
(注)気候変動に関する科学的知見の提供を目的に、欧州気候法に基づき設立された独立機関。今回の2040年目標案も同機関の助言に基づく。
(吉沼啓介)
(EU)
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