MPIAパネル、EU・中国の知的財産関連紛争にかかるWTO判断の一部覆す

(世界、EU、中国)

調査部国際経済課

2025年07月24日

WTOは7月21日、EUが提訴していた中国の知的財産権の行使にかかる紛争(DS611)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますについて、多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)による審理を経て、最終判断が示されたと公表した(WT/DS611/ARB25外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。第1審に当たる4月のWTOパネルの判断について、一部が覆される結果となった。

DS611でEUは2022年2月、中国の3G(第3世代)、4G(第4世代)、5G(第5世代)などの無線通信技術の標準必須特許(standard-essential patent:SEP、注)のライセンス料を巡る問題について、WTOに提訴していた。中国は特許権者による中国国外の裁判所での権限行使を「禁訴令(Anti-suit Injunction:ASI)」によって禁止しており、EU側は、ASIがWTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)に違反していると主張した(2022年2月21日記事参照)。

WTOパネルは2025年4月、中国のASI政策がTRIPS協定と不整合な点をEU側が立証していないと判断したが、EU側はこれを不服として同月22日にMPIAに基づく仲裁判断に上訴した(WT/DS611/13外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。MPIAによる仲裁判断では、WTOパネル判断のうち4点を支持したが、3点については覆した。ASI政策の一部がTRIPS協定と整合していないとして、中国側に整合させるよう勧告した(通商専門誌「インサイドUSトレード」7月21日)。

参加国増えるMPIA

WTOの紛争解決制度で二審制の上級審に当たる上級委員会は、2019年12月から委員数が最低限必要な人数を下回っており、機能不全に陥っている(米国が上級委員会の委員選任を拒否)。この問題を受け、WTO加盟国の一部の国・地域が暫定的な対応として発足させた枠組みがMPIAだ(2024年9月5日付地域・分析レポート参照)。MPIA参加国・地域間での紛争は、機能不全の上級委に上訴(いわゆる「空上訴」)して塩漬けにするのではなく、MPIAによる仲裁を通じて解決を図るという仕組みだ。

MPIAに参加する国・地域は拡大する傾向にあり、2025年5月にパラグアイとマレーシア、6月に英国が新たに加わった。7月現在でEUとその27加盟国、日本や中国を含む57カ国・地域が参加している。

(注)標準規格に準拠するために不可欠な特許。特許権者は公正(Fair)、合理的(Reasonable)、非差別的(Non-Discriminatory)な条件(FRAND条件)で他社にライセンスすることが原則とされる。特許権者に支払う特定のロイヤルティー料率がFRANDか否かについて、特許権者との間で法的紛争が生じる可能性がある。

(北見創)

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