EU、中国によるEU企業の通信技術特許権行使の制限でWTO紛争解決手続き開始

(EU、中国)

ブリュッセル発

2022年02月21日

欧州委員会は2月18日、中国がEU企業による中国国外の裁判所での特許権行使を不当に制限しているとして、中国に対してWTO紛争解決手続きに基づく協議の申し立てを行ったと発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。欧州委によると、移動通信システムの3G(第3世代)、4G(第4世代)、5G(第5世代)などの無線通信技術の標準規格に準拠するために不可欠な特許である標準必須特許(standard-essential patent:SEP)に関して、中国は特許権者による中国国外の裁判所での権限行使を禁止しており、こうした政策はWTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)に違反しているとしている。欧州委のバルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(通商担当)は、中国のこうした政策によってEU企業は特許権の行使において著しく不利な状況に置かれており、中国の通信端末製造企業はEU企業の保有する技術を違法に、あるいは適切な対価を支払うことなく利用しているとした上で、EUのハイテク産業を守らなければならないと強調した。

EU、中国の司法手続き利用した不当な政策と批判

欧州委は、2020年8月に中国最高人民法院(最高裁判所に相当)が出した、実質的に同一の紛争に関して当事者が他国の裁判所で訴訟を開始または継続することを禁止する外国訴訟差止命令(注1)と、それに違反した場合に毎日累積する罰金を1日当たり100万元(法定の上限額、約1,800万円、1元=約18円)科すとする裁決を問題視。この裁決が出て以降、中国の下級審で外国企業に対して同様の外国差止訴訟命令が4件(注2)出されているとしている。欧州委は、これらの裁決は特許権者による他国の裁判所での権利行使を禁止する政策の一環であり、全国人民代表大会常務委員会がこうした政策を是認していると主張している。

EUは今後、中国とWTO紛争解決手続きに基づく協議を開始するとみられ、協議の要請から60日以内に紛争が解決されない場合には、一審に当たる小委員会(パネル)に付託することになる。なお、中国に対しては、EUは1月にもリトアニアに対する輸入制限をめぐってWTO紛争解決手続きを開始している(2022年1月28日記事参照)。

(注1)anti-suit injunction:中国法の「禁訴令」。

(注2)うち1件はシャープが当事者となっていたが、後にクロスライセンス契約の締結により紛争終結(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(吉沼啓介)

(EU、中国)

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