深セン~香港間のデータ流通が加速、医療データの「南下」実現へ
(中国、香港)
広州発
2025年07月11日
中国広東省の深セン市前海管理局は7月3日、深セン市と香港間のデータ越境移転に関わる最新の取り組みを発表した。同発表によれば、香港大学深セン病院(注1)は7月1日、同病院内の医療データを、専用チャンネル「深セン・香港間の安全で便利なデータ越境移転チャンネル」を通じて、香港政府が開発した市民の電子健康記録の管理・共有プラットフォーム「医健通」へ送信する実証試験を実施し、成功した。今後、深セン市と香港特別行政区政府(以下、香港政府)は、双方の法制度に則しながら、同専用チャンネルを通じた電子カルテや検査結果などの医療情報を相互に通信する実用的な仕組みの構築に向けて検討を進めるとしている。
同専用チャンネルは、深セン市インターネット情報弁公室および深セン市前海管理局など政府部門の主導により構築されたもので、ブロックチェーンや秘密計算などの最先端技術を活用し、データの安全な送信を実現するもの。
同発表における香港大学深セン病院の説明によると、これまで香港市民が「医健通」を通じて自身の医療データを深セン市に持ち込む「データ北上」は実現していたが、今回の試験により、深セン市から香港へデータを送信する「データ南下」が初めて可能となった。今後は、両地域の住民がより利便性が高く一貫した医療サービスが享受できるよう、両地域の住民の越境医療プロセスをさらに最適化していくとしている。
香港政府が推進する「長者医療券大湾区試点計画」や「粤港澳大湾区病院管理局患者支援先導計画
」(注2)などの政策により、市民による越境医療の利用が増加している。これに伴い、医療体系の融合とデータ共有の重要性が高まっている。
なお、この取り組みの背景には、広東省政府が2023年11月に発表した「『デジタル・ベイエリア(湾区)』建設に向けた3カ年(2023~2025年)行動プラン」がある。同プランでは、広東省・香港・マカオの3地域間でのデータの安全な流通促進とともに、通関・通信・年金・医療などの分野で越境サービスを提供する方針が示されている(2023年12月6日記事参照)。
(注1)深セン市政府の全額出資により2012年に開業した大型総合公立病院。香港大学の世界トップレベルの優位性を有する分野と病院管理ノウハウ、医療技術を導入しているとされる。
(注2)「長者医療券大湾区試点計画」は、2024年2月19日に発表された試験的な制度で、香港の高齢者が香港政府支給の医療券を使い、広東省内の指定医療機関で外来診療費・看護サービス費を支払うことができるもの。2025年5月2日には同制度の指定医療機関を拡大することが発表された。「粤港澳大湾区病院管理局患者支援先導計画」は、2023年5月9日に発表された試験的な制度で、香港の公立病院で予約を持つ患者が、香港大学深セン病院で診療を受けることができる。
(汪涵芷)
(中国、香港)
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