米、ブラジルへの50%の追加関税賦課を発表
(ブラジル、米国)
サンパウロ発
2025年07月11日
米国のドナルド・トランプ大統領は7月9日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、ブラジルからの全輸入品に対し、8月1日から50%の追加関税を課すと発表した。トランプ大統領は追加関税を課す主な理由として、盟友であるブラジル前大統領のジャイール・ボルソナーロ氏が政治的クーデターを企てたことによって起訴されている旨を「政治的迫害」とみなすなど、政治的動機なども挙げている(2025年7月10日記事参照)。
これに対し、ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は7月10日付のレコードTVのインタビューで、50%の追加関税を覆すため、政府がWTOに正式な申し立てを行うと述べた。また、もし成功しなかった場合、ブラジルは比例的な報復措置を取ると、国家主権を擁護する姿勢を示し、「経済相互主義法」(注1)に基づく対抗措置も辞さない構えを見せた(2025年4月7日記事参照)。
今回のトランプ大統領の発表に対して、ブラジル産業界からは強い懸念の声があがっている。ブラジル全国産業連盟(CNI)は、7月9日付の現地雑誌「イスト・エー」の取材に対して、追加関税の賦課を正当化する「経済的な事実はない」と指摘し、外交交渉による解決を求めた。また、ブラジル農牧業連盟(CNA)は公式ウェブサイト上で、「この一方的な措置は、両国間の貿易関係の歴史によって正当化されるものではない」と発表した。加えて、「米国とブラジルの関係は、貿易や投資の分野で分析すれば、常に両国の利益にかなうものであり、不公正または望ましくない不均衡は一切存在しない」と主張した。
米国側は不公正な貿易関係も追加関税を賦課する理由に挙げたが、米国通商代表部(USTR)の統計によれば、2024年の対ブラジル物品貿易は米国側の黒字であり、トランプ大統領の主張と実統計との間に食い違いが見られる(注2)。
(注1)ルーラ大統領が言及した対抗措置の法的根拠は、2025年4月14日に公布された法律第15,122/2025号、通称「経済相互主義法(Lei da Reciprocidade Econômica)」だ 。他国による一方的な貿易制限措置がブラジルの競争力に悪影響を及ぼす場合、政府が報復関税や知的財産権の停止を含む比例的な対抗措置を講じることを認めるというもの。
(注2)USTRのデータによると、2024年の米国の対ブラジル物品貿易収支は74億ドルの黒字だった。同年の両国間の貿易総額は920億ドルに達した。
(中山貴弘)
(ブラジル、米国)
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