米マサチューセッツ州の量子エコシステムを視察、ジェトロの「量子ミッション」
(米国)
調査部米州課
2025年07月03日
ジェトロは6月12日、量子技術分野における日米間の新規ビジネス創出や関係技術者間の連携を深めることを目的に、大学を中心に量子エコシステムが形成される米国マサチューセッツ州に日本企業・機関から成る視察団(ミッション)を派遣した(注1)。量子分野でビジネス拡大を図る大手企業やスタートアップ、量子関連の研究機関など18社・団体の22人が参加し、現地の大学やスタートアップ、支援機関と関係を構築した。
同州は、量子技術の先端的研究を行う学術機関の集積が強みだ。ミッションは、そうした学術機関の中でも中核となるハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)を訪問し、各大学における研究内容や産学連携の取り組みを聞いた。ハーバード大学で産業界との連携促進などを担う技術開発室のシャロン・フレッチャー氏は、基礎研究の成果を商業化するために、学術界と産業界のコネクション形成を積極的に支援したいと話した。量子科学・工学の研究・教育プログラムである「ハーバード量子イニシアチブ」の共同ディレクターを務めるイブリン・フー氏も、現在の量子技術の発展を支えるためには、基礎研究が商業化によって補完される必要があると強調した。
ハーバード大学の取り組みについて説明するフー氏(ジェトロ撮影)
ハーバード大学やMITでの研究を基に量子コンピュータを開発・製造し、産業技術総合研究所と研究協力覚書を結ぶクエラ・コンピューティング(QuEra Computing、本社:マサチューセッツ州ボストン)プレジデントの北川拓也氏は、同州のエコシステムにテック企業の経営や資金調達の経験が豊富な人材が多くいることが、素早い事業化を可能にする要因の1つだと指摘した。
MIT量子工学センター(CQE)の研究者ジェフ・グローバー氏は、CQEが量子コンピュータを使って問題解決できる領域を特定するために企業と連携しているほか、政策担当者とも関係構築を図っていると説明した。量子分野の専門知識を持たない社会人向けの能力開発コースを提供し、産業界から好評を得ていることも紹介した。MITコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)でビジネス開発を担当するグレン・ウォン氏は、CSAILではMITの教授陣やスタートアップと連携するためのさまざまなプログラムを用意していると述べ、学外の企業がMITのエコシステムに参加することを歓迎した。
MITの取り組みについて説明するグローバー氏(ジェトロ撮影)
ミッションは、ボストン地域の代表的なインキュベーション施設のケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)も視察し、現地スタートアップとのネットワーキングも行った。ミッション前日の6月11日には、J-Bridge(注2)のイベントとして、CICで量子技術と同様にボストンを代表する分野であるロボティクスや気候変動テックなどの現地イノベーション支援機関との交流イベントも開催した。
ミッション参加者からは、「ハーバード、MITとも単なる基礎研究にとどまらず、量子技術の社会実装に向けて真摯に向き合っていることを感じた」「量子コンピュータに関する最新の研究トレンドを把握できた」などの声が聞かれた。
(注1)ジェトロはマサチューセッツ州に先立ち、イリノイ州でも量子ミッションを実施した。詳細は2025年6月30日記事参照。
(注2)日本企業とスタートアップなどの海外企業の国際的なオープンイノベーション創出を目的としたビジネスプラットフォーム。詳細はジェトロのウェブサイトを参照。
(甲斐野裕之)
(米国)
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