トランプ米大統領、香港の随鋭国際による米企業買収取引に禁止命令、国家安全保障の懸念を理由に
(米国、中国、香港)
ニューヨーク発
2025年07月15日
米国財務省は7月11日、香港企業による米国企業の買収に関して、ドナルド・トランプ大統領が取引を禁止する命令を発令したことを発表した。トランプ氏は7月8日付で取引を禁止する大統領令
に署名した。
禁止対象取引は、中国企業の随鋭科技集団(Suirui Group)が株式の過半を所有する香港企業の随鋭国際(Suirui International)が米国企業のジュピター・システムズ(Jupiter Systems)を2020年2月に買収した取引だ。ジュピターのウェブサイトによると、同社はコントロールルーム用のビデオウォールシステム(注)などの開発や提供を手掛けており、米国の国家安全保障局(NSA)、中央情報局(CIA)、航空宇宙局(NASA)などを顧客に有する。
財務省の発表では、対米外国投資委員会(CFIUS)がこの取引を審査・調査した。CFIUSは、随鋭国際にジュピターが所有されることで、米国の軍事・重要インフラにジュピター製品が使用される際、国家安全保障上の懸念が生じると判断した。これを受け、トランプ氏は、買収を通じて随鋭が米国の国家安全保障を損なう措置を講じる可能性について、信頼性の高い証拠があるとして、命令の効力発生日から120日以内に、随鋭にジュピターの権利と利益の売却を指示した。また、随鋭にジュピターの有形資産、無形資産(知的財産、ジュピター製品の非公開のソースコード、顧客契約を含む)の権利と利益の売却を指示した。
なお、ジュピターは7月12日に声明を発表し、「ジュピターは法律顧問や関係者と協議しつつ、当該決定を積極的に精査している」「米国の企業として、イノベーション、国家安全保障、米国の法規制の順守に対する当社のコミットメントは常に揺るぎないものだ」などと述べた。
CFIUSは、外国の投資が米国の国家安全保障に脅威を及ぼすかどうかを審査・調査する省庁横断の委員会だ。事前の申告や届け出がなかった取引に関しても、CFIUSが脅威の可能性を関知した場合に、事後的に審査・調査を行うことがある。CFIUSが設立された1975年以降、米国大統領はCFIUSの審査結果を踏まえ、今回の命令を含めて10件の取引禁止命令を発令している。このうち、日本製鉄によるUSスチールの買収の事案を除き(2025年6月19日記事参照)、今回の命令を含む9件はいずれも、何らかのかたちで中国が関与している(添付資料表参照)。
(注)複数のディスプレーを組み合わせて構成した大画面(ビデオウォール)に、複数の映像や情報を同時に表示させるシステム。
(葛西泰介)
(米国、中国、香港)
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