タイ商務省、迂回貿易防止策を明かす、対米交渉に弾み

(タイ、米国)

バンコク発

2025年06月16日

タイ商務省外国貿易局(DFT)のアラダ・フアンタング局長は6月12日、米国との関税交渉が正式に開始することを受け、商務省による迂回貿易の防止策を明かした。同局長が現地紙「クルンテープ・トゥラキット」紙の取材に答えたもので、対策は主に次の2つ。

  1. 専門交渉チームの設置:貿易担当の高官を含む交渉チームを編成し、米国通商代表部(USTR)と協議する。協議は、米国がタイ製品に36%の相互関税を課す期限が1カ月以内という時間的制約を踏まえ、オンラインで実施する。
  2. 原産地証明書(C/O)の審査厳格化:原産地偽装への対応として、迂回リスクがある製品へのC/O発給をDFTが厳格化する。タイは、米国向け輸出のうち監視対象品目(ウオッチリスト)について、非特恵C/Oを発給している(2024年2月22日記事参照、注1)。

C/Oの審査厳格化については、DFTは他の国内発給機関のタイ商工会議所とタイ工業連盟(FTI)と面談を実施し、ウオッチリストの米国向け輸出に関して、DFTが唯一の非特恵C/O発給機関となることに合意している。DFTは、米国の要件に準拠したC/O発給基準の策定に向けた米国税関・国境警備局(CBP)との協議の主担当に指定されている。

アラダ局長によると、タイが発給する非特恵C/Oは米国に受け入れられており、原産地偽装ではないことの証明になる。なお、全ての米国向け輸出に非特恵C/Oが必要ではなく、ウオッチリストに該当する品目だけが非特恵C/Oを求められる。DFTはCBPと連携し、同リストに関わるHSコードの明確化を進めているという。

また、DFTは国内の発給機関との面談で、トランプ米政権による追加関税(注2)や迂回防止策の対象になり得る製品について、米国統計に基づき、ウオッチリストに追加することを協議した。同リストは2022年に34品目、2023年に39品目、2024年に49品目〔194の関税分類(HSコード)〕に拡大している(注3)。DFTは65品目群(200以上のHSコード)に拡大することを検討中としている。拡大版のウオッチリスト案は米国に提出済みで、米国の承認を踏まえて発表する予定だ。

DFTの調査(2019年~2022年)によると、原産地偽装が確認された製品には、蜂蜜やマットレス(ばね付きのものを含む)、トラック向け鉄鋼ホイール、ソーラーパネルが含まれる。プリント布地や石油産業向けパイプなどは、原産地偽装が減少している。また、過去4カ月(2025年1~4月)の間に中国から大量に輸入されているテレビやラジオ、スマートフォン、電気自動車(EV)、プリント回路、電気機器・同部品、コンピュータ・同部品は、ウオッチリストには含まれていないものの、今後追加されるリスクが高いとした。

DFTは年間平均130万件のC/Oを発給している(注4)。2024年1~5月は、米国向けウオッチリスト向けに1万7,000件の非特恵C/Oを発給しており、ソーラーパネルやタイヤ、アルミ箔、木製家具が含まれる。

なお、1.に関しては、ジェトロが6月13日、タイ外務省に取材したところ、米国政府とは交渉入りで合意しており、交渉日程を協議しているという。

(注1)タイの非特恵C/Oに関わる申請方法や必要書類、留意点はジェトロ貿易・投資相談Q&Aを参照。

(注2)追加関税は、米国政府が1962年通商拡大法232条に基づく追加関税(232条関税)と、1974年通商法301条に基づく追加関税(301条関税)を指す。232条関税は現在、自動車・同部品や鉄鋼・アルミ(派生)製品に、301条関税は中国原産品に対して、それぞれ賦課されている。米国関税措置については、ジェトロ特集ウェブサイトを参照。

(注3)現時点での最新のウオッチリストは2024年2月2日記事参照

(注4)C/O発給件数については、類型別の月次データ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをDFTが公表している。

(藪恭兵、シリンポーン・パックピンペット)

(タイ、米国)

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