ロシア側はウクライナ東・南部「併合」の国際承認などを和平条件として提示

(ロシア、ウクライナ)

調査部欧州課

2025年06月05日

5月に約3年ぶりに行われたロシア・ウクライナ間の直接交渉(2025年5月20日記事参照)に続き、2回目の直接交渉が6月2日にイスタンブールで行われた。交渉の場で双方が作成した和平に向けた覚書案の交換が行われたが、相いれない内容となった。交渉では捕虜の交換や兵士遺体の送還で合意した(2025年6月4日記事参照)。

ロシアのインターファクス通信など現地メディアが6月2日、ロシア側作成の覚書案を公開した。タイトルは「ウクライナ危機に関するロシア連邦の提案(覚書)」で、ロシア語の文書。a. 最終的な和平の基本的要件、b. 停戦条件、c. 実施の手順と期限の3部から構成される。

和平の基本的要件の概要は次のとおり。

  1. ウクライナ南部のクリミアのほか、同国東・南部のルハンスク、ドネツク、ザポリッジャ、へルソン4州のロシアへの「併合」に関する国際法上の承認、および同領域からのウクライナ軍および準軍事組織の完全な撤退
  2. ウクライナの中立化、軍事同盟・連合への不参加。第三国によるウクライナ領内でのあらゆる軍事活動や軍事基地などの設置の禁止
  3. 上記2.に反する現行の国際条約などの終了および今後の締結の禁止
  4. ウクライナが核兵器および大量破壊兵器を保有しない国家としての地位の確認。同兵器のウクライナ領内への受け入れ、通過、配備の禁止
  5. ウクライナ軍および軍事組織の兵力、武器、装備の上限および許容可能な性能の設定。ウクライナ軍と国家親衛隊に含まれる民族主義組織の解散
  6. ロシア人およびロシア語話者の完全な権利、自由、利益の確保。ロシア語の公用語化
  7. ナチズムおよびネオナチズムの賛美とプロパガンダの法的禁止。民族主義組織および政党の解散
  8. ロシア・ウクライナ間の経済的な制裁・禁止・制限措置の撤廃、今後の導入禁止
  9. 家族の再会および避難民に関する一連の問題の解決
  10. 軍事作戦による損害に関する相互請求権の放棄
  11. ウクライナ正教会(UOC)(注)に関する制限措置の撤廃
  12. 外交および経済関係(ガス輸送を含む)、輸送、通信の段階的な回復(第三国とのものも含む)

第2部の停戦条件では、2つの選択肢を挙げた。第1の選択肢には、ウクライナ軍や準軍事組織のウクライナ東・南部4州およびロシア領土からの完全な撤退の開始などが盛り込まれた。第2の選択肢は「包括的案」とし、ウクライナ軍組織の再展開の禁止、第三国によるウクライナへの軍事援助の停止、ロシアに対する攻撃の放棄、ウクライナでの戒厳令の解除と、同解除後100日以内の大統領選挙および最高会議(国会)選挙の実施を求めた。

第3部の実施の手順では、全ての条項の実施期限や和平条約の署名日を定める停戦覚書の締結、同条約署名前のウクライナ大統領および議会選挙の実施や、国連安全保障理事会による法的拘束力を持つ決議で署名済み条約を承認することなどが明記された。

(注)モスクワ総主教系の教会。

(浅元薫哉)

(ロシア、ウクライナ)

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