5月の米雇用統計、大幅な悪化は回避も減速の兆候、賃金は高い伸びを保つ

(米国)

ニューヨーク発

2025年06月09日

米国労働省は6月6日、5月の雇用統計を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。大幅な悪化は回避され、賃金上昇率は高い伸びを保ったものの、内容面では減速の兆候も散見された。

就業者数(前月比69万6,000人減)、失業者数(同7万1,000人増)、労働参加率(62.4%、前月から0.2ポイント低下)を踏まえた失業率は4.2%で前月とほぼ変わらず、市場予想(4.2%)と一致した(添付資料表1、図1参照)。もっとも、労働参加率の低下がみられることや、これにもかかわらず失業率がほぼ変化しなかったことを踏まえると、雇用環境は緩やかに悪化しつつあるとみることもできる。なお、非自発的にパートタイムを選択している者などを加えた広義の失業率(注)は7.8%で、前月と変わらなかった。

非農業部門の雇用者数の伸びは13万9,000人増となり、市場予想(12万6,000人)をやや上回った。3、4月の数値はそれぞれ下方修正された結果、3カ月平均では13万5,000人増と、2024年平均(16万8,000人増)比でやや低めの伸びとなり、失業率が示唆したものと同様の傾向がみてとれる。

新規雇用者数増の内訳をみると、民間部門は14万人増、政府部門は1,000人減となった(添付資料表2参照)。政府部門では、連邦政府が2万2,000人減となる一方、地方政府は増加した。民間部門では、財部門が5,000人減で、製造業(8,000人減)は減少したが、建設業(4,000人増)は増加した。サービス部門は14万5,000人増で、ヘルスケアを中心とした教育・医療(8万7,000人増)のほか、娯楽・接客業(4万8,000人増)、金融業(1万3,000人増)などで伸びた(添付資料表2、図2参照)。

平均時給は36.2ドル(前月36.1ドル)で、前月比0.4%増(前月0.2%増)、前年同月比3.9%増(前月3.9%増)だった(添付資料表1参照)。いずれも市場予想を上回った。業種別にみると、情報業や金融業、対事業所サービスなど高賃金の業種の伸びが目立ち、総じて高い伸びを維持した。

今回は緩やかな減速の兆候も散見されたが、総じていえば大幅な悪化は避けられたかたちだ。ドナルド・トランプ大統領は、雇用統計の発表後、自身のSNSで連邦準備制度理事会(FRB)に対して再び利下げを要求したが、今回の結果を見る限り、FRBが直ちに利下げに動く可能性は低そうだ。地区連銀報告などでは、今後数カ月の間、関税引き上げに伴う物価の顕著な上昇がみられると予想されており(2025年6月6日記事参照)、相対的に安定している今回の雇用統計の内容は、利下げ再開を急ぐ必要がないというFRBの見解(2025年5月8日記事参照)を補強する可能性が高い。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の調査でも、現時点では利下げ再開は9月との見方が最多で、市場の早期利下げ期待は低下している。

もっとも、関税引き上げに伴い小幅ながらレイオフを予定している企業も無視できないレベルで報告されているほか、先行き不透明感から求人を絞る傾向もみられ始めており、雇用の減速が今後どの程度のスピードになるかについてはなお予断を許さない。

(注)失業者に加え、「現在は仕事を探していないが、過去12カ月の間に求職活動を行った者」と「フルタイムを希望しているものの、非自発的にパートタイムを選択している者」を合わせて算定した数値。

(加藤翔一)

(米国)

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