5月の米地区連銀報告、今後短期間での顕著な価格上昇を予想
(米国)
ニューヨーク発
2025年06月06日
米国連邦準備制度理事会(FRB)は6月4日、5月の地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。4月15日~5月23日のデータに基づく。全体概況は「前回からわずかに低下した」とし、「全ての地区で景気と政策の不確実性が高まっており、これが企業や家計の意思決定の慎重な姿勢とためらいにつながっている」と指摘した。見通しについては、前回と同様に「わずかに悲観的で不確実性の高い状況が続いている」とした。
分野別では、消費は「ほとんどの地区でわずかに減少もしくは横ばいだったものの、一部の地区では関税の影響を受けると予想される品目への支出が増加した」とし、駆け込み需要と全体的な需要の低下が混在した状態だったとの見方を示した。住宅部門は、販売はほぼ横ばいだったものの、新築住宅建設は横ばいまたは減速しているとした。製造業に関しては、わずかに低下したと報告した。運輸部門では、港湾関連は堅調だった一方、それ以外はまちまちだったとした。一部の地区連銀からは、駆け込み輸入の増加に伴って港湾付近の倉庫での保管が増加したが、その先のトラック輸送などは低調だったことが報告されており、需要低迷や企業の余剰在庫を抱えるリスク回避の姿勢などが影響している可能性がある。
労働市場に関しては、「3地区でわずかから控えめに増加、2地区でわずかに減少、それ以外のほとんどの地区では横ばいで、前回報告からほぼ変わっていない」とした。多くの地区で離職率の低下や求人への応募が増加する一方、先行きの不確実性から労働需要は減少しているもようで、労働時間・残業時間の減少、採用の停止、一部ではレイオフも見られているという。また、こうした労働需要の低下に伴って、多くの地区で賃金上昇圧力が低下していると報告している。
価格は、全体としては緩やかに上昇しているとした。ただし、今後については「コストと価格の上昇ペースが加速すると予想する者が多数いる」とも報告し、一部の地区ではこのペースが「強く、顕著、または相当な」程度になるとしている。関税コストへの対応については、関税引き上げ対象品目の値上げ、対象品目以外も含む全品目の値上げ、利益率の低下、一時的な手数料や追加料金の設定など、さまざまな方策が模索されているとのことだ。また、価格転嫁を計画している者は3カ月以内に行う予定とも報告している。これらの報告は、ニューヨーク連銀が発表した調査(2025年6月5日記事参照)とほぼ同様の傾向で、全米で今後短期間のうちに価格上昇が発生し得ることがはっきりと示されたかたちだ。
(加藤翔一)
(米国)
ビジネス短信 9134ca73c203835c