米USTRによる「優先監視国」指定に対し、自国の取り組みを主張
(メキシコ、米国)
メキシコ発
2025年05月07日
米国通商代表部(USTR)が4月29日に発表した2025年版の知財報告書において、新たにメキシコを「優先監視国」に追加した(2025年4月30日記事参照)ことを受け、メキシコ経済省と産業財産権庁(IMPI)は、同日に声明を発表した。「クラウディア・シェインバウム政権では、国内および貿易相手国の知的財産権の保護に尽力している」とした上で、違法に国内に持ち込まれた商品や知的財産権の侵害に対して、連邦政府や地方当局が連携して行う取り締まり活動(「一掃作戦」と呼ばれる)の実施など、直近の立法措置や公共政策による対応を主張した。
経済省は、USTRとの対話と連携の継続を表明するとともに、報告書の中で指摘された点(注1)は次のとおり、解決に向かっているとした。
○2020年の連邦産業財産権保護法の公布および連邦著作権法の改正に加え、プラン・メキシコの第15項(2025年4月11日記事参照)に基づいたさらなる改正など、重要な法改正を実施・予定している。
(1)各法律の施行細則は、連邦政府の法律顧問による確認がなされている最中で、間もなく公表される予定。
(2)最高裁判所は、連邦著作権法改正の合憲性を確認した(注2)。
○医薬品関連の知財保護に関しては、USMCAにおける施策導入までの5年間の移行期間(注3)の最中だ。
(1)2025年3月にIMPIと連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)の間で衛生登録手続きに関する連携協定が発表され、医薬品および産業財産権の規制における透明性と効率性が確保された。
(2)医薬品に関する特許情報をまとめたポータルサイトが開設されており、権利者やジェネリック医薬品開発への投資に関心のある第三者に対し確実性を与えるものとなっている。
当局による権利侵害品の取り締まりは国内各地で実施されており、直近では2024年11月に、メキシコシティ中心地の小規模小売業者が集まる「プラサ・イササガ・89」で海軍省、経済省およびメキシコ市政府が模倣品など約26万点、商品価値にして約750万ペソ(約5,475万円、1ペソ=約7.3円)分を押収。また、2025年4月にはプエブラ州でIMPIが筆頭となって大規模な取り締まりを行い、有名ブランドの模倣品や立体商標の権利侵害品、健康被害が懸念される商品などを押収している。
プエブラ州でのIMPIによる取り締まりの押収品(IMPI公式ページより)
(注1)USTRの報告書では、メキシコが米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)における知的財産権保護の枠組みと整合させるかたちで、2020年に連邦産業財産権保護法および連邦著作権法の改正を行ったが、その施工細則がまだ定められていないことが指摘されている。また、海賊版コンテンツのまん延や模倣品の輸入・製造・販売・再輸出・積み替えが多く行われていること、これらを取り締まる上での制度上の問題や、当局における予算・人員削減に関連する課題も指摘された。
(注2)USMCAの知財保護の枠組みにあわせて改正され、2020年7月1日に施行された連邦著作権法には、インターネット・サービス・プロバイダーがオンライン掲載コンテンツの著作権侵害に関する通知を受けるか、侵害が明白な事実または状況を認識した時点で、当該マテリアルを削除するか同マテリアルへのアクセスを停止した場合には、著作権侵害行為への賠償責任を免除されるという規定がある。この規定が表現の自由に反しており、不当な判断によってマテリアルを削除されかねないとして、同年8月19日に人権保護団体「アーティクル19(ARTICLE 19)」によってアンパロ訴訟(行政・立法・司法などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度)が提起されていたが、2024年6月に最高裁判所が当該条文に違憲性はないと結論付けた。
(注3)移行期間は2025年7月1日まで。
(渡邊千尋)
(メキシコ、米国)
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