中国系ECプラットフォームのテムなど、米国の消費者への直接配送を停止
(米国、中国、英国、カナダ)
ニューヨーク発
2025年05月07日
米国のトランプ政権が5月2日、中国からの輸入に対して「デミニミスルール」(注)の適用を停止(2025年4月4日記事参照)したことを受け、複数の小売業者は米国の顧客への直接配送を停止している。他方で、関税の影響を相殺するために値上げする企業も相次いでおり、今後、消費者の購買力が圧迫される懸念が高まっている。
中国系EC(電子商取引)プラットフォームの「Temu(テム)」は、中国から米国の消費者への商品の直接配送を停止すると、「ニューヨーク・タイムズ」紙など複数のメディアが報じた(5月2日)。トランプ政権による中国への関税政策を受け、テムは4月下旬から、中国から発送される商品には130~150%の輸入手数料を顧客から徴収しており、これに伴って多くの場合、消費者が実質的に支払う価格は2倍以上に跳ね上がっていた。こうした事態に対応するため、テムは関税引き上げ前に米国内で積み増された在庫から出荷することにより、関税引き上げに伴うコスト上昇を回避している(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版5月2日)。テムの広報担当者はCNBCに対し、米国での販売は、現在、全て現地の販売業者によって行われ、「米国内から出荷されている」と述べ、これにより当面は米国での価格を据え置く意向だ。これまで中国各地で生産された安価な商品を米国の消費者に直送し、低価格を売りに米国で急伸した同社にとって、従来のビジネスモデルから大きな転換となる。
テム以外にも、中国で製造された下着を販売するアンダースタンス(本社:カナダ・バンクーバー)は、関税の影響で米国への出荷を停止しているが、状況が明確になれば出荷を再開すると述べた。また、英国の美容製品小売企業スペースNKは4月30日、米国からのネット注文の受け付けと配送を一時停止し、「顧客の注文に誤ったコストや追加コストが適用されるのを避けるため」と説明した(ロイター5月2日)。
他方で、関税への対応策として値上げをする企業も相次いでいる。ブルームバーグ・ニュースの集計によると、衣料品のECサイトを手掛ける中国発のSHEIN(シーイン)では、米国での値上げは4月25日に集中し、カテゴリーごとに大きな差がみられた。美容および健康分野の上位100品目では平均価格が前日比51%上昇し、一部の商品は2倍以上の値上げとなった。そのほか、英国の衣料品ブランド「オー・ポリー」は、米国での販売価格を他市場と比べて20%引き上げるとし、貿易交渉の動向次第で、さらなる値上げも検討する可能性があると示唆した。
(注)米国では、輸入貨物の申告額が非課税基準額(デミニミス)以下の場合、原産地などの情報を申告せずに無税で輸入可能となっていたが、トランプ政権は4月2日、中国に対して、このデミニミスルールの適用停止を発表した(2025年4月4日記事参照)。
(樫葉さくら)
(米国、中国、英国、カナダ)
ビジネス短信 dd5dc2e0f50192fd