メルツ首相、就任直後に欧州諸国を歴訪、ウクライナ戦争終結に向けた働きかけを強化

(ドイツ、フランス、ポーランド、ウクライナ、ロシア、米国、英国)

ベルリン発

2025年05月22日

ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は5月6日の就任(2025年5月8日記事参照)後、翌日にフランス・パリとポーランド・ワルシャワを、5月9日にはブリュッセルでEUとNATO本部を、5月10日にはウクライナ・キーウを訪れた。

初外遊の地となったパリで、メルツ首相は、ドイツ・フランス両国と英国が共同で核抑止力の構築を検討することに言及。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ドイツが防衛への大規模投資を決めたことを歓迎した(2025年3月24日記事参照)。他方、共同記者会見では、メルツ首相がEU・メルコスール自由貿易協定(FTA)の早期批准に前向きな姿勢を示したのに対し、マクロン大統領は国内生産者保護のため慎重な立場を表明。両国の貿易政策の相違が明らかになった(2024年12月13日2025年3月25日記事参照)。

ワルシャワでは、ポーランドのドナルド・トゥスク首相と会談。両国間の交通インフラの拡大などを約束した。トゥスク首相は良好な2国間関係に期待を寄せつつも、ドイツのアレクサンダー・ドブリント内務相が表明した国境警備の強化案については、域内の出入国管理を撤廃するシェンゲン協定が重要とした。

ブリュッセルでは、EUとNATO本部を訪問。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長との共同記者会見では、ドイツがEU内で強力な役割を果たしていくことや移民問題などに言及。NATOのマルク・ルッテ事務総長とは、欧州の安全保障などについて話し合った。

5月10日にはマクロン大統領、トゥスク首相、英国のキア・スターマー首相と共にウクライナのキーウを訪問し、ボロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、ドイツ語)。そこで、4カ国によるウクライナ支援への決意が表明されるとともに、5月12日から30日間の無条件停戦をロシアに対して要求した。会談の場で米国のドナルド・トランプ大統領との電話会談も行われ、米国のウクライナ支援の継続を確認するとともに、無条件停戦についても同意を得た。米国の後押しを受けた停戦の呼びかけにロシア側も反応、ウクライナに対しトルコで5月15日に停戦交渉を行うことを提案した。交渉の場では、1,000人ずつの捕虜交換に双方が合意したが、無条件停戦についてはロシア側からの同意は得られなかった、と報じられた。

就任後数日でメルツ首相がウクライナ支援について国際的なイニシアチブをとり、停戦に向けロシアへの圧力を高めたことについて、国内専門紙では、EUや欧州諸国などとの連携、その中でのドイツの指導的役割の重要性を意識していることの表れだと評価されている(「ダス・パーラメント」紙2025年5月13日)。

他方、メルツ首相は、ウクライナが切望するドイツの長距離巡行ミサイル、タウルスの供与については明言を避けた。戦略的観点から、今後はウクライナへの武器供与の情報公開を控えるという。

(打越花子)

(ドイツ、フランス、ポーランド、ウクライナ、ロシア、米国、英国)

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