中国企業によるチリへのリチウム投資が取りやめか
(チリ、中国)
調査部米州課
2025年05月16日
チリの産業振興公社(CORFO)は5月7日、中国企業によるチリ北部アントファガスタ州への投資プロジェクト2件が取りやめになった旨をウェブページ上で伝えた。2件の投資プロジェクトは、電気自動車(EV)メーカーのBYDと、青山控股集団(Tsingshan Holding Group)の子会社にあたる永青科技(Yongqing Technology)によるもの。両社はそれぞれ、CORFOが2022年8月に公募を開始した、チリ産の炭酸リチウムを原料とする製品開発に関する入札の落札者となっていた(2023年10月23日記事参照)。
CORFOは、チリ企業SQMが生産した炭酸リチウムを優遇価格で落札者へ提供する代わりに、落札者がチリ国内で同リチウムに一定の付加価値を与える製品開発に係る投資を実行することを応札の要件としていた。CORFOによれば、近年のリチウム価格の低迷が2社の投資の取りやめの一因となったとされている。しかし、CNN CHILEなどの各種メディアは、投資手続きの煩雑さやその遅滞など、政府による制度設計上の問題についても指摘していた。
政府はBYDの投資について釈明も、残る不透明感
国内外のメディアで本件が盛んに取り上げられる中、ニコラス・グラウ経済・振興・観光相とマイサ・ロハス環境相は、CORFOの代表者と共に5月14日に開催されたチリ下院の鉱業・エネルギー委員会に出席した。同委員会の中で、2社のうち、BYDについては、あくまでもこれまで投資の予定地とされていた土地を放棄するものであり、投資そのものが取りやめとなったわけではない、と釈明した。ただし、同土地の選定は、チリ政府が提示したいくつかの候補の中からBYD自身が行ったもので、今後はBYDに対して投資についての最終的な判断を仰ぐ必要があるとした。またグラウ氏は、投資手続きの短縮や簡素化には既に政府として取り組んでいるが、チリの環境を保全するために投資家に求める基準を引き下げるつもりはないとした。
CORFOは、先述した内容とほぼ同様の枠組みで、チリ産の炭酸リチウムの調達に係る新たな公募を4月30日に開始している。今回はSQMではなく、米国のアルベマール(Albemarle)がチリ国内で生産する炭酸リチウムの一部を対象としている。
(佐藤竣平)
(チリ、中国)
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