米シンクタンク、米造船産業振興に向け、日韓企業の対米投資誘致の必要性など提起
(米国、日本、韓国)
ニューヨーク発
2025年05月20日
米国のシンクタンクは、米国の造船産業の振興に向けて、日本と韓国との協力が有力な選択肢になるとのレポートを相次いで発表している。
戦略国際問題研究所(CSIS)は5月15日、「米国と北東アジアの同盟国との造船協力の道筋の特定」と題した報告書を公表した。報告書では、米国内の造船産業は労働力不足や設備老朽化などの理由で、生産拡大が制限されていると指摘し、商船建造能力を有し米国と緊密な協力関係にある日本や韓国との協力を検討すべきだと総括した。具体的な協力手段として、(1)日韓が米海軍艦艇の整備・修理・オーバーホール(MRO)に参加する、(2)日韓企業が米国の造船所を買収する、(3)米日韓が軍艦建造をモジュール化し、共同生産を行う、(4)米国が日韓の造船所から軍艦を購入することの4点を挙げた。(2)に関しては、韓国のハンファグループが2024年12月にフィリー造船所の買収を完了
した事例を挙げ、日韓企業の造船技術の移転を通じて、米国内造船産業の活性化を図れると説明した。
カリフォルニア州拠点のランド研究所は5月6日、「米韓日が造船で協力しなければならない理由」と題した論考を発表した。論考では、世界の商船の建造能力の約50%を中国、約30%を韓国、約10%を日本が占める一方、米国は1%に満たないと指摘し、米国は単独で中国に対抗できず、産業能力や専門知識を持つ同盟国に目を向けなければならないと強調した。具体的には、日韓を含む外国企業の対米投資に対する規制緩和や、税制優遇の措置を講じることなどを挙げた。
米国のドナルド・トランプ大統領は4月に、米国の海事産業基盤再建の大統領令を発令し、関係閣僚に対して、国内造船産業の支援策のほか、同盟国の造船業者の対米投資の喚起策を検討することなどを指示していた(2025年4月11日記事参照)。連邦議会上院の超党派議員も4月に、「繁栄と安全のための造船・港湾インフラ(SHIPS)法」案を提出した(注1)。米国の造船産業の振興に向けては、政権・議会超党派で方向性が一致しており、今後の政策(注2)や法案の進展が注目される。
(注1)トッド・ヤング上院議員(共和党、インディアナ州)とマーク・ケリー上院議員(民主党、アリゾナ州)が「SHIPS for America Act」「Building SHIPS in America Act」の2法案に分けて提出した。
(注2)このほか、米国通商代表部(USTR)は4月に、1974年通商法301条に基づき、中国企業が運航・所有する船舶や、中国で建造された船舶、外国で建造された自動車運搬船の米国港湾への入港について、2025年10月から追加料金を課す措置を発表している(2025年4月22日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、日本、韓国)
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