アルセロール・ミタル、脱炭素化計画を再開へ
(フランス、EU)
パリ発
2025年05月20日
鉄鋼大手アルセロール・ミタルは5月15日、フランス北部ダンケルク工場での脱炭素化投資計画を発表した(プレスリリース)。総額12億ユーロを投じ、電気アーク炉(EAF)を新設する。これは、2022年に打ち出した脱炭素化プロジェクトの一環で(2023年6月26日付地域・分析レポート参照)、南部フォス・シュル・メール工場への電気炉導入や、ダンケルクでの水素を活用した直接還元(DRI)ユニットの建設も含まれる。
中国からの安価な鋼材流入による競争激化を受け、同社は2024年11月に計画の延期を余儀なくされたが、今回の発表により、脱炭素化への取り組みを再び本格化させる姿勢を明確にした。
背景には、欧州委員会が3月に発表した「鉄鋼・金属行動計画」(2025年3月27日記事参照)がある。輸入鋼材へのセーフガード〔関税割当枠(クオータ)の設定〕の強化や、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の強化などが盛り込まれ、欧州鉄鋼市場の公平な競争環境の整備が期待されている。
2025年夏までに条件が整えば、ダンケルクのEAF建設に加え、同工場とフォス・シュル・メール工場への設備投資(それぞれ2億5,400万ユーロ、5,300万ユーロ)、さらに、同年末までに完成予定の北部マルディック工場での電磁鋼板生産ユニットの建設(5億ユーロ)を含め、総額20億ユーロ規模の投資が動き出す見通しだ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領も同日、地方紙「ミディ・リーブル」とのインタビューで、「欧州委員会と連携し、この投資を強化していく」方針を明らかにした。アルセロール・ミタルが4月に発表した600人を超える人員削減計画に対しても、「政府と欧州(委員会)が一体となって対応する。必要な手段は全てそろっている」と述べ、雇用維持と産業の脱炭素化を両立させる姿勢を強調した。
一方で、一部労組が求める国有化については、「問題は競争力や資本ではなく、アジアからの不公正な競争だ」と指摘し、政府の役割は「ルールを守らない輸入品を制限すること」だとして、国有化の可能性を否定した。
(山崎あき)
(フランス、EU)
ビジネス短信 4386d10bad4864c3