トランプ米大統領、海事産業基盤再建の大統領令発令
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年04月11日
米国のドナルド・トランプ大統領は4月9日、米国の海事産業基盤の再建などに向けた対応を関係閣僚に指示する大統領令を発令した。
大統領令では、米国の商船の造船能力が中国に劣ることなどを問題視し(注1)、米国第一主義の一環として、米国の国家・経済安全保障の確保に向け、海事産業基盤の再建や労働力の強化に向けた包括的な取り組みが必要だと説明した。具体的には、マイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)に対し、海事行動計画(Maritime Action Plan:MAP)を策定するよう指示した(第3条)。
また、ジェミソン・グリア米国通商代表部(USTR)代表に対し、中国の海事・物流・造船分野に対する1974年通商法301条に基づく措置の発動を決定した場合に、中国で製造された港湾クレーンやその他の港湾荷役機器の米国輸入に対する関税の賦課などの追加的措置を検討するようを指示した(第5条)。これに関連し、USTRは2024年4月に301条調査を開始し(2024年4月18日記事参照)、2025年2月に中国で建造された船舶の米国港への入港1回につき最大150万ドルの追加料金を課すなどの措置案を発表していた(2025年2月25日記事参照)。同措置案に対する意見聴取プロセスを通じては、海上運賃の価格上昇を招く懸念などから、産業界から見直しを求める声が上がっていた(2025年3月13日記事参照)。301条に基づく措置の内容決定は、調査開始から1年後が期限に規定されていることから、遅くとも4月17日までに決定するものとみられる。なお、措置発動は、措置内容の決定から原則30日以内に開始される(注2)。
このほか、今回の大統領令で示した企業に追加的費用が発生し得る内容としては、クリスティ・ノーム国土安全保障長官に対し、港湾維持料(HMF)を回避する目的でカナダやメキシコを経由して陸路で米国に輸送される貨物について、料金徴取を担保するために10%のサービス料金を課すことなど、法律で認められている範囲で必要な措置を講じるよう指示した(第6条)。
また、国内産業振興に向け、ピート・ヘグセス国防長官に対し、国防生産法(DPA)第3条(注3)を含めた利用可能な連邦政府の権限や資源の評価を指示した(第4条)。同時に、ハワード・ラトニック商務長官に対し、米国の造船能力の強化に向け、同盟国の造船業者の対米投資を奨励するインセンティブを提案し、MAPに盛り込むよう指示した。
(注1)米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が3月に公表した造船産業の米中競争に関する報告書によると、世界の商船の造船能力の割合(2024年、総トン数)は、中国が53.3%、韓国が29.1%、日本が13.1%、米国(0.1%)を含めたその他の国・地域が4.4%だった。
(注2)301条に基づく調査~措置発動のプロセスは、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(注3)DPA第3条は、国内産業基盤が不十分な分野で国内需要の不足分を補填(ほてん)するための助成金や購入保証、融資、融資保証などの提供を規定する。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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