米下院議員4人、IRA税額控除の一部を廃止する法案提出
(米国)
ニューヨーク発
2025年04月16日
米国連邦議会下院のジュリー・フェドチャーク議員(共和党、ノースダゴタ州)ら4人の議員は4月10日、インフレ削減法(IRA)に基づく税額控除の一部を段階的に廃止する法案を提出した。
「非ベースロード電源に対する補助金廃止法案」と名付けた同法案では、IRAに基づく税額控除のうち、内国歳入法(IRC)45YとIRC48E(2024年6月7日記事参照)によって支援される太陽光、風力の発電事業に係る部分を対象に、毎年20%ずつ段階的にクレジット額を削減し、5年後に廃止することを提案している。原子力、水力、地熱などほかの電源に関するものは対象とはならない。また、法案本文には記載していないが、フェドチャーク氏は自身のHPで、税額控除を第三者に譲渡することができるという規定も廃止していくと表明している。
同法案を提出した理由について、フェドチャーク氏は「IRAの税額控除によって、太陽光や風力などの非ベースロード電源が不釣り合いに有利になった結果、石炭や天然ガス、原子力といったディスパッチ(注)に対応可能なベースロード電源が急速に廃止されつつあり、エネルギー供給の信頼性を危機にさらしている」「IRAの税額控除によって、今後10年間で、議会予算局の試算の3倍に当たる最大9,010億ドルの負担を納税者が強いられる可能性がある」と述べ、政府支出の削減とエネルギー供給の安定性強化が目的だとしている。
もっとも、この法案がどの程度の賛同を集めるかは不透明だ。上・下院が採決した予算決議(2025年4月8日記事参照)では、下院のエネルギー・商業委員会で8,800億ドルを含む1兆5,000億ドルの歳出削減を目指すとしており、この目標との関係で同法案は整合的な動きとなる。他方、IRAの税額控除を巡っては、共和党州でこれを前提とした投資が盛んに行われていることもあり(2024年10月17日付地域・分析レポート参照)、同じく共和党のリサ・マコウスキー上院議員(共和党、アラスカ州)らは、IRAに基づく税額控除の維持を求める書簡を発出している。また、NERAエコノミック・コンサルティングの試算
では、今回廃止の対象となっているIRC45Yや48Eが利用できない場合、2029年には住宅向け電力料金が7.3%、商業・産業用電力料金が10.6%上振れするとされている。この試算どおりの結果になる場合には、トランプ政権の掲げるエネルギーコストの削減という目標に反するかたちとなる。IRAを巡っては歳出削減やエネルギー政策、産業政策などさまざまな要素が絡み合っており、どのような決着を見せるのかはいまに見通し難い。
(注)電力需給に即して、給電指令に基づき、各発電所が柔軟に出力制御を実施すること。
(加藤翔一)
(米国)
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