ブラジルのルーラ大統領、アジア諸国とのFTA網拡大に意欲
(ブラジル、インド、ASEAN)
調査部米州課
2025年04月21日
ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、アジア諸国との自由貿易協定(FTA)の拡大に前向きな姿勢を明らかにした。4月7日付現地紙「バロール・エコノミコ」が報じた。同紙によると、ブラジル政府関係者の話として、政府は米国のトランプ政権が課す相互関税への報復措置を今すぐにはとらない代わりに、アジア諸国とのFTA網の構築に注力する(注1)。優先順位の高い交渉相手国として挙げられているのは、ベトナム、インドネシア、タイなどのASEAN諸国とインドだ。
ブラジルとインドの間には、2009年に発効した特恵貿易協定がある。ただ、協定の自由化率は決して高くなく、インド側で450品目、メルコスール側で452品目の関税が10~100%の範囲内で引き下げられているのみだ(注2)。インド側では450品目のうち、関税引き下げ率10%が93品目、20%が336品目で、ほとんどを占め、100%は21品目のみ。インド側で輸入するブラジル産品のうち、関税が無税になるのは、HSコード8桁ベースでわずか21品目しかない。ルーラ大統領は今後、当該協定の自由化対象品目の拡大を目指す意向だ。3月20日付のインドの現地紙「エコノミック・タイムス」によると、インドのピユシュ・ゴヤル商工相もメルコスール諸国との貿易拡大を希望しているという。
メルコスールはASEAN諸国との間では、2021年にインドネシアとのFTA交渉開始を発表している。2022年には第1回交渉に向けた会合をオンラインで開催した。今後は交渉が加速するとみられる。ベトナムとは、2023年12月に開催された第63回メルコスール首脳会合の中で、FTA交渉の開始について協議が進行していることが明らかになった。
3月に訪日したルーラ大統領は、東京都内で開催された「日・ブラジル経済フォーラム」で、世界的に傾向を強めている保護主義を批判するとともに、自由貿易を保持する必要性を訴えている(2025年3月27日記事参照)。なお、メルコスールは2024年12月にEUとのFTAで最終合意している(2024年12月10日記事参照)。
(注1)ブラジル政府は4月3日、外国による貿易制限に対する報復措置を可能とする法案第2088号を可決した(2025年4月7日記事参照)。同法により、ブラジルの輸出品が輸出先国で高関税など不当な制限をかけられた場合、ブラジル側も相手国の輸出品に同様の措置を導入することが認められる。
(注2)インド側はHSコード8桁レベルの450品目。メルコスール側はメルコスールの関税分類番号のNCMコードの452品目が対象。インド側で関税無税の21品目は、41類の「原皮(毛皮を除く。)及び革」(12品目)、84類の「原子炉、ボイラー及び機械類並びにこれらの部分品」(5品目)、85類の「電気機器及びその部分品並びに録音機、音声再生機並びにテレビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及び附属品」(4品目)に限られている。具体的な品目は米州機構貿易情報システム(SICE)参照。
(辻本希世)
(ブラジル、インド、ASEAN)
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