ベッセント米財務長官、中国に変化呼びかけ、国際協調重視の姿勢、政権と議会の温度差縮まるか
(米国、中国、世界)
ニューヨーク発
2025年04月30日
米国のスコット・ベッセント財務長官は4月23日、首都ワシントンの国際金融協会(IIF)で講演した。ワシントンでは4月21~26日にIMF・世界銀行総会が行われていた。ベッセント長官の講演は中国への関与や国際協調重視の姿勢を示すなど、これまでの「米国第一」の政策からバランスを取る内容となった。
ベッセント長官は講演の冒頭で、第2次世界大戦後の国際金融体制を定めたブレトン・ウッズ体制に言及し、グローバル経済にはグローバルな協調が必要で、国家の利益と国際秩序を一致させ、不安定な世界に安定をもたらすためにIMFと世界銀行が設立されたと述べる一方で、現在の国際経済システムには「至る所で不均衡(imbalance)がある」と指摘した。
その上で、貿易に最も不均衡があると指摘し、米国は不公正な貿易システムの結果、大規模かつ継続的な貿易赤字に直面し、製造業は空洞化、重要なサプライチェーンは弱体化し、国家安全保障と経済安全保障が脅かされているとした。また、大規模で持続的な不均衡は米国だけでなく、最終的には他の経済にとっても持続可能ではないと説いた。そのため、トランプ政権は、これらの不均衡とそれが米国国民に与える負の影響に対処するため、強力な措置を講じていると説明した。
特に中国に対しては、再均衡(rebalance)が必要だと述べた。中国経済は消費以上に製造業への依存度を高めていると述べ、財輸出に依存した経済システムが継続すれば、貿易相手国との間でより深刻な不均衡を引き起こし続けると指摘した。その上で「中国は変化が必要だ」「米国にとっても再均衡が必要なため、われわれは中国の変化を支援したい」と呼びかけた。
ベッセント長官はまた、「グローバルな経済関係は安全保障のパートナーシップを反映すべきだ」とも述べ、「安全保障のパートナーは、互恵的な貿易を可能にする互換性のある経済構造を有している」「米国が安全保障の保証と開放的な市場を提供し続けるなら、同盟国は防衛へのより強いコミットメントを示す必要がある」とのメッセージを同盟国に送った。
ただし、ベッセント長官は不均衡を是正するに当たり、「『米国第一』は米国単独を意味しない」「むしろ、貿易パートナー間のより深い協力と相互尊重を呼びかけるものだ」とも強調した。講演の最後には「『米国第一』とは、IMFと世界銀行を含む国際経済システムへの関与強化を意味する」「より持続可能な国際経済システムとは、米国やシステムに参加する全ての国の利益をよりよく反映するもの」として、国際協調を重視する姿勢を示した(注)。
ベッセント長官の講演は、中国に対する強硬一辺倒の政策方針や、米国のみを中心とする政策方針とは異なる内容だ。議会の中国や通商政策の専門家からは、対中政策を構築する上で、日本やEUなど同盟国と連携したいが、政権の一連の関税政策などによって各国と協調した政策調整が難しい環境にあるとの意見が聞かれる。今後の米国の対外経済政策がどのように構築されていくのか注目される。
(注)ベッセント長官と日本の加藤勝信財務相は4月24日に初めて対面で会談し、相互貿易を含む幅広い2国間問題について建設的な議論を行った。ベッセント長官は両国による2国間貿易協議の良好なスタートを歓迎した。
(赤平大寿)
(米国、中国、世界)
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