カナダ・自由党カーニー新党首の政策内容と国内での反応
(カナダ、米国、メキシコ)
トロント発
2025年03月12日
カナダで3月9日にマーク・カーニー氏が与党・自由党の新党首に選出された(2025年3月10日記事参照)。同氏が選挙中に掲げた主な政策の1つは、「気候・環境政策」を重点に、雇用創出による経済成長を促進することだ。連邦政府による炭素税の一部で、家計に影響するものを直ちに廃止し、代わりにエネルギー効率の良い電化製品や電気自動車(EV)の購入、住宅断熱の改善など、より環境に優しい選択を推奨するための優遇制度を導入するとしている。一方、大規模産業排出者に課せられる生産量ベースの価格設定制度は維持され、今後10年間で増額される予定だ。なお、児童福祉や歯科医療など、トルドー政権の主要な社会政策の一部は維持する意向を示している。
2月25日に開かれた党首選討論会では、州間の貿易障壁となる各州の基準の相互承認や規制の代替順守などを撤廃し、これまで軽視してきた国内貿易を見直すことで、カナダ経済を育成すべきと主張していた。カーニー氏は当選後、カナダを軌道に戻し、強い経済を築くため、次の7つの柱を提示した。
- カナダを軌道に戻す
- 政府を改革して成果を上げる
- 全てのカナダ人が前進できるようにする
- カナダのために建設する
- 1つのカナダ経済を創造する
- 信頼できる貿易相手国とカナダを結ぶ
- カナダを安全にする
それらの柱の達成のため、住宅計画の強化と移民の制限、税制と優遇制度の根本的改革、人工知能(AI)を活用した政府サービスの生産性向上、AIインフラ構築、データセンター・クラウド・AIシステムなどの重要分野へのイノベーション投資、国防強化などを挙げている。
カーニー氏はCBCのインタビューで、「責任ある投資を行うことで財政赤字を計上する見込みだが、財政管理を通じて3年間で運営予算の均衡を図る」と明言した。また、一部の連邦閣僚や最大野党・保守党のピエール・ポワリエーブル党首が支持する東西石油パイプライン構想を支持するとし、「国家として、従来型エネルギー用の新たなパイプラインを建設する必要がある」と述べ、大規模なインフラ・天然資源事業のプロセス規制の簡素化により、それら事業の承認を加速させる計画だ、と付け加えた。
カーニー氏の選出を受け、オンタリオ州のダグ・フォード首相(進歩保守党)は「連邦政府の新たなリーダーシップを楽しみにしている」と祝福した。一方で、石油産業の中心地であるアルバータ州のダニエル・スミス首相(統一保守党、UCP)は、同州の石油産業の敵だと非難するともに、早期の選挙を求めた。またポワリエーブル氏は、カーニー氏を「ドナルド・トランプ米大統領に焦点を当てることで、自由党の失策からカナダ人の注意をそらそうとしている」と非難し、2008年のリーマン・ショック時のカナダ銀行総裁としての役割など、過去の実績を誇張していると主張した。
選出された翌日の3月10日、カーニー氏はジャスティン・トルドー首相と会談後、スムーズかつ迅速な政権移行を約束するとコメントした。トランプ米大統領との貿易紛争に対応すべく、カナダが一丸となって取り組む姿勢に賛同を得るため、同氏は、近いうちに州首相らと連絡を取る予定で、連邦政府と各州の間の良好な協力関係を保つことが重要だと強調した。勝利演説では、米国がカナダの労働者、家族、企業を攻撃していると批判し、「米国がカナダに敬意を示し、自由で公正な貿易に対する信頼と、その約束が守られるまで、政府は対抗策を維持する」と述べた。
(井口まゆ子)
(カナダ、米国、メキシコ)
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