トランプ米政権、メキシコとカナダに対する追加関税措置のファクトシート発表

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2025年03月05日

米国のドナルド・トランプ大統領は3月3日、メキシコとカナダへの追加関税賦課に関するファクトシートを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。トランプ政権は翌4日から、不法移民や合成麻薬フェンタニルの流入を理由に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、メキシコ原産品に対して一律25%、カナダ原産品に対して、エネルギー・同資源に10%、それ以外の産品に25%の追加関税を課している(2025年3月4日記事参照)。

ファクトシートでは、カナダとメキシコに、危険なカルテルの活動や米国への薬物流入を抑制する十分な機会を与えたが、両国はこの状況に適切に対処していないと断じた。その上で、メキシコの麻薬カルテルの活動や、カナダでフェンタニルなどを生産するメキシコ人カルテルなどを問題視した。また、2024年のカナダとの国境でのフェンタニル押収量は、メキシコ国境での押収量よりは少ないとしながらも、2025会計年度(2024年10月~2025年9月)最初の4カ月間に北部国境で押収されたフェンタニルは、2022会計年度に押収された量に急速に迫っていると指摘した。その上で、密売人の逮捕や薬物の押収、米国法執行機関との連携にメキシコとカナダは失敗しているとし、これらが米国の安全保障に対する尋常でない脅威のため、IEEPAに基づく措置が必要だと述べ、追加関税の正当性を主張した(注1)。

これに対し、議員間では意見が分かれた。自動車ディーラー経営の経験があるバーニー・モレノ上院議員(共和党、オハイオ州)は、自動車業界にとって「短期的な痛み」があることは認めつつも、フェンタニルによる死亡を減らすには正当な措置だと述べた。一方で、ゲーリー・ピーターズ上院議員(民主党、ミシガン州)は、ミシガン州からの輸出の約40%がカナダ向けだとして、同州は「連邦内のどの州よりも損失を被る立場にある」と懸念を示した(政治専門紙「ポリティコ」3月4日)。産業界からは経済への影響を懸念する声が上がっており、米国自動車イノベーション協会のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「全ての自動車メーカーがカナダとメキシコへの関税の影響を受ける」「ほとんどの自動車メーカーは、一部車種の価格が最大25%上昇すると予想しており、車両価格と車両供給能力への悪影響はほぼ即座に感じられるだろう」と述べている(ロイター3月4日)。

また、メキシコやカナダは、今回の米国の追加関税措置に対して対抗措置を検討しているとされ(カナダ:2025年3月5日記事参照、メキシコ:2025年3月5日記事参照)、不法移民やフェンタニルなどの流入阻止に向けた取り組みにより、両国に対する追加関税措置が短期で終わるのか、それとも長期化するのか、今後の行方が注目される(注2)。

(注1)1962年通商拡大法232条や1974年通商法301条などと、IEEPAの違いの1つは、232条や301条が通商上の懸念に対抗するために発動できるのに対し、IEEPAは通商以外の脅威に対しても経済的な対抗措置をとれる点にある。IEEPAの発動に向けた要件などは、2024年12月10日付地域・分析レポート参照

(注2)メキシコへの追加関税による日系企業のサプライチェーンへの影響は、2025年2月21日記事参照

(赤平大寿)

(米国、メキシコ、カナダ)

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