インドネシア・エコノミック・サミット(IES)、外資呼び込みに向けた国内改革が必要との声も

(インドネシア)

ジャカルタ発

2025年03月05日

インドネシア・エコノミック・サミット(IES)では、閣僚ら政府関係者の講演(2025年3月5日記事参照)のほか、インドネシアやASEANに関連する研究者や産業界の代表によるパネルディスカッションも開催された。

「インドネシアが世界貿易戦争で勝ち組になるために」と題したパネルでは、国際経済学会(IEA)のリリィ・ヤン事務局長が、米国のトランプ政権がインドネシア経済に与える影響として「関税の引き上げによる貿易の停滞が起こるほか、米国国内投資に対する優遇策により発展途上国への投資が減少する」と指摘した。加えて、インドネシアは他のASEAN諸国と比較するとGDPに占める対内直接投資の割合が最低レベルであると述べ、「投資規制をはじめとした国内改革を適切に進めなければ、中国をはじめとした外国からの直接投資を取り込むことが難しくなる」と強調した。インドネシア政府が進める下流化(サプライチェーンの川下を含めた高付加価値化)政策について、登壇したジェトロ・アジア経済研究所の木村福成所長は、天然資源の採掘と下流化との間には大きな距離がある、と指摘したうえで、「歴史を振り返れば、ドイツが下流化の成功事例といわれるが、化学産業だから成功した要素が大きい」と強調した。そのうえで、(サプライチェーン全体で高付加価値化を実現できる可能性が高い)農業部門などから下流化政策を推進する必要性を論じた。また、「世界におけるインドネシアの影響力は大きく、WTOなどのルールに即する重要性を発信することに期待する」と述べた。

国家経済評議会の副議長を務めるマリ・エルカ・パンゲストゥ氏は「危機が国内改革を推進する」としたうえで、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を活用したサプライチェーンの強化や、インドネシアとEUの包括的経済連携協定(CEPA)の締結に向けた交渉継続(2025年3月3日記事参照)、中国の過剰生産問題に対する貿易救済措置の適切な使用や中国と対話を行う必要性を指摘した。また、経済特区(SEZ)を活用した再生可能エネルギー分野への投資の促進の必要性を強調した。

写真 木村所長らの登壇セッションの様子(ジェトロ撮影)

木村所長らの登壇セッションの様子(ジェトロ撮影)

「インドネシアの成長ポテンシャルへの投資」と題したパネルに登壇したインドネシア商工会議所(KADIN)のアニンディア・バクリ会頭は、人的資本への投資が重要としたうえで、「政府が進める給食の無償提供プログラムや健康診断の無償化が、長期的な経済成長につながる」と述べた。また、これらの政策を進めるうえで人工知能(AI)を活用しながら効率的に運営する必要性に言及した。

インドネシア大統領特使(COP29担当)のハシム・ジョジョハディクスモ氏はプラボウォ・スビアント政権が掲げるGDPの8%成長目標について、非常に楽観的な見通しであるとしたうえで、「給食の無償提供プログラムのための財政出動により、GDPが2%上昇する」と強調した。また、慢性的に不足する低所得者向けの住宅強化政策により、都市部において年間100万戸のアパートを建設し、農村部では年間100万戸の戸建て住宅を建設するとともに、漁村など沿岸地域にも住宅供給するとし、「年間2~2.5%のGDP押し上げ効果がある」と強調した。また、この政策には、既にカタール政府が300万~500万戸、アラブ首長国連邦(UAE)も100万戸を建設する意向を示したと明らかにし、中国の大手建設会社とも交渉中とした。

写真 ハシム大統領特使らの登壇セッションの様子(ジェトロ撮影)

ハシム大統領特使らの登壇セッションの様子(ジェトロ撮影)

(大滝泰史)

(インドネシア)

ビジネス短信 123d6530b3ada303