トランプ米大統領、出生地主義を否定する大統領令に署名、違憲との異議申し立ても
(米国)
ニューヨーク発
2025年01月23日
米国のドナルド・トランプ大統領は1月20日、移民政策に関連し、6本の大統領令(注1)に署名した。このうち「米国市民権の意味と価値を守る」では、憲法第14条に記述されている米国市民の定義について、トランプ政権による解釈を盛り込んだ。
同大統領令によると、憲法第14条で「合衆国に生まれ、または帰化し、その裁判権に服する全ての者は、米国およびその居住する州の市民」とされているのは、1857年のドレッド・スコット対サンフォード判決で、アフリカ系の人々を米国市民と認めないとの判決を否認するためのものだったとし、「米国内で生まれた全ての人に市民権を平等に与えると解釈されたことはない」とした。その上で、米国で生まれても、次の場合は、市民権が自動的に与えられるべきではないとした。
(1)米国出生者の出生時、母親が米国に不法滞在し、父親は米国市民または永住権保持者でない場合
(2)米国出生者の出生時、母親が米国に合法的に滞在していたものの、一時的に認められた滞在(ビザ免除プログラムによる米国訪問、学生ビザ、就労ビザ、観光ビザなどによる米国訪問中の出産によるもの)で、父親は米国市民または永住権保持者でない場合
上記2点に当てはまる場合、米国のいかなる当局・機関は米国市民権を認める文書を発行したり、市民権を認めると称する州・地方、その他の当局が発行した文書を受理したりしてはならないとし、大統領令の発表から30日以降に出生した者を対象にするとした。
これを受け、ニュージャージー州のマシュー・プラトキン司法長官(民主党)は1月21日、同州以外の17州、コロンビア特別区、カリフォルニア州サンフランシスコ市(注2)とともに、同大統領令に対して、マサチューセッツ州地方裁判所に異議申し立てをした。申し立てでプラトキン司法長官は「米国出生者の市民権を一方的に廃止するトランプ大統領の試みは明白な憲法違反だ。150年以上もの間、わが国は米国で出生した子供は米国市民という基本的な規則を守ってきた」とし、憲法では、「米国で出生した子供の市民権は、両親の市民権に左右されない」ことを明白にしていると述べた。
(注1)(1)米国南部国境における国家非常事態宣言(2024年1月22日記事参照)、(2)米国の難民受け入れプログラムの再編成、(3)米国市民権の意味と価値を守る、(4)米国国境の安全確保(2024年1月22日記事参照)、(5)侵略から米国国民を守る
、(6)外国人テロリストやその他の国家安全保障および治安の脅威から米国を守る
の計6本。
(注2)カリフォルニア、マサチューセッツ、コロラド、コネティカット、デラウェア、ハワイ、メーン、メリーランド、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、ニューメキシコ、ニューヨーク、ノースカロライナ、ロードアイランド、バーモント、ウィスコンシンの各州、コロンビア特別区、カリフォルニア州サンフランシスコ市。主要メディアによると、その後、オレゴン、アリゾナ、イリノイの3州も申し立てに加わった。
(吉田奈津絵)
(米国)
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