USMCAの自動車原産地規則に関する公聴会、産業界は厳格化に慎重姿勢
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2024年10月10日
米国国際貿易委員会(ITC)は10月8日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車の原産地規則(ROO)が米国経済に与える影響について、公聴会を開催した。参加した産業界の代表は総じて、USMCAの自動車ROOのさらなる厳格化に慎重な姿勢を示した。
ITCは、大統領と連邦議会に対して2031年まで2年おきに、USMCAの自動車ROOが米国経済に与える影響に関する報告書の提出が義務付けられている。初回は2023年に提出されており(2023年7月4日記事参照)、今回の公聴会は2025年7月1日を期限とする2回目の報告書作成に向けて実施された。
米国通商専門誌「インサイド・US・トレード」(10月8日)によると、証言した産業界の代表は、2026年に予定されているUSMCAの協定見直し(注1)での自動車ROOの厳格化に反対した。グローバル・オートメーカーズ・オブ・カナダのデビッド・アダムズ会長は「2026年に予定されている協定の見直しが、さらなる変更や産業界が新たな要件に再び対応する必要性につながらないことを期待している」と証言したほか、オートス・ドライブ・アメリカのバイスプレジデント(政府渉外担当)のローリー・ヘスリントン氏は「非現実的なほど厳しいルールは逆効果になりかねない」と述べた。USMCAの自動車ROOは、他の自由貿易協定(FTA)と比べて類を見ないほど厳格に規定されており、米国通商代表部(USTR)が7月に発表した報告書では、ROOを満たせない自動車・同部品の対米輸出の増加が示されている(2024年7月3日記事参照、注2)。一方で、11月5日の米国大統領選挙の民主党候補カマラ・ハリス副大統領は、USMCAの見直しを米国の労働者を守るために利用するとして、さらなる厳格化を示唆していた(2024年9月30日記事参照)。
また、米国では、安価な中国製の電気自動車(EV)の将来的な流入が懸念されており(注3)、一部では、インフレ削減法(IRA)で定めたEVなどクリーンビークル購入時の税額控除の要件を、USMCAの自動車ROOに組み込むべきとの意見もある。こうした状況に対し、フォルクスワーゲン・グループ・オブ・アメリカのシニア・バイスプレジデント(産業・政府関係担当)のアンナ・シュナイダー氏はITCの公聴会で、「米国と北米のバッテリーのサプライチェーンとEV普及を加速させるためのさらなる努力を大いに阻害する可能性がある」として、慎重な姿勢を示した。
米国主導のUSMCAの自動車ROOの厳格化に対しては、メキシコとカナダも慎重な姿勢を示しており(2024年6月28日記事参照)、経済安全保障の観点から規制を強化したい米国政府と、経済的利益を追求したい産業界、加盟国との間で隔たりがある。2026年のUSMCAの見直しがどのように行われるのか、今後の動向が注目される。
(注1)USMCAは、発効6年後に見直しを行い、参加する3カ国が合意すれば、さらに16年間継続すると定めている。米国ではこの見直しプロセスを利用して、自動車のROOの一層の厳格化を求める声が出ている。
(注2)ITCによる報告書のほか、USTRも2年ごとにUSMCAの自動車物品貿易の運用状況の議会への報告が義務付けられている。
(注3)バイデン政権は9月に、中国製EVの流入懸念を背景に、中国とロシアが生産した特定の機器を搭載したコネクテッドカーの輸入・販売を禁止する規則案を発表している。産業界は当該規則案に対しても慎重な姿勢を示している(2024年10月1日記事参照)。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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