米商務省、東南アジア4カ国製の太陽電池に補助金相殺関税(CVD)賦課の仮決定
(米国、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム、中国)
ニューヨーク発
2024年10月03日
米国商務省国際貿易局(ITA)は10月1日、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムの東南アジア4カ国製の太陽電池に対して補助金相殺関税(CVD)を賦課する仮決定を9月30日付で下したと発表した。近日中に官報で正式に公示される見込みだ。
米国政府は2024年4月以降、4カ国製の太陽電池に対するアンチダンピング関税(AD)とCVDの発動要否を判断する事実確認調査を開始していた(2024年5月22日記事参照)。AD・CVDはWTO協定で認められた貿易救済措置の一種だ。ADは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出(ダンピング輸出)が輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、その価格差を相殺する目的で賦課される。CVDは、政府補助金を受けて生産などされた貨物の輸出が輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、当該補助金の効果を相殺する目的で賦課される。
今回ITAがCVDを賦課する仮決定を下したことで、官報公示と同日にCVDの徴収が開始されることになる。CVDの税率は、特定の輸出者・生産者からの輸入以外は、カンボジアからが8.25%、マレーシアからは9.13%、タイからは23.06%、ベトナムからは2.85%に設定された。CVD調査を通じた米国政府の情報提供依頼に協力しなかった特定企業などに対しては、最大で292.61%が賦課される。なお、税率はITAの最終決定で変更される可能性がある。ITAは、最終決定を2025年2月中旬に発表予定としている(注1)。
米国国際貿易委員会(USITC)の輸入統計によると、今回、AD・CVD調査の対象になった品目の輸入額は、2018年に約9億ドルだったのに対し、2023年は約166億ドルと急増した。2023年の輸入額のうち、4カ国が占める割合は74%に及ぶ(添付資料図1参照)。なお、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(10月2日)によると、東南アジアに進出した中国系企業が製造した製品の流入が米国の太陽電池メーカーに損害を与え、インフレ削減法(IRA)の米国内クリーンエネルギー産業振興の目的を毀損(きそん)したとの米国産業界の懸念が、AD・CVD調査開始の要因の1つとして指摘されている。
4カ国製の太陽光発電製品の米国輸入に対しては、今回のCVDのほかにも、1974年通商法201条(セーフガード)に基づく追加関税(2022年2月7日記事参照)が賦課されている。このほか、4カ国が中国製の太陽光発電製品に対するAD・CVDを回避するための経由地となっているとの懸念から、4カ国の特定企業を除いてAD・CVDが賦課されている(2023年8月24日記事参照)。さらに、中国・新疆ウイグル自治区などがサプライチェーンに関与する製品の米国輸入を禁止する、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)に基づく水際措置も、同自治区産の中間財を東南アジアで加工し製造された太陽光発電製品に対して重点的に執行されている。米国税関・国境警備局(CBP)の公表するUFLPA執行統計によると、これまでにUFLPAに基づいて米国で輸入が差し止められた貨物の85%を、太陽光発電製品含めたエレクトロニクス分野が占めており、マレーシア、ベトナム、タイから輸入が多い(注2、別添資料図2~3参照)。
(注1)なお、ADに関しては現段階で発表されていない。
(注2)割合は2024年9月1日時点の金額ベース。
(葛西泰介)
(米国、カンボジア、マレーシア、タイ、ベトナム、中国)
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