米グーグルやアマゾンが小型モジュール原子炉からの電力購入などを発表
(米国)
ニューヨーク発
2024年10月17日
グーグルは10月14日、米国次世代原子力発電のカイロス・パワーが開発(注1)・設置する小型モジュール原子炉(SMR)からの電力を購入する計画を発表した。SMRの具体的な設置場所や金額などの契約内容の詳細は明らかではないが、2030年までに最初のSMRを稼働させ、2035年までに追加炉を展開することで、計7基のSMRで500メガワット(MW)規模の電力供給を目指す計画だ。
SMRは発電に必要なシステムや部品などを工場で組み立てた後、ユニット一式(モジュール)として設置場所に輸送することができるため、従来の原発と比べて建設の期間やコストの低減が期待されている。また、小型ゆえに、立地の選定が比較的柔軟にできるほか、冷却もしやすいため安全性が高いといわれている。こうしたメリットから、次世代の脱炭素電源として米国を含め世界各国で開発が進められているが、実装に当たっては、SMRがスケールメリットを発揮するまでの間、比較的高コストとなる電力の購入者を見つけるのが困難であることが課題の1つとして指摘されている(「ウォールストリート・ジャーナル」紙10月14日)。今回の発表は、グーグルがカイロス・パワーのローンチカスタマーとなることで上記課題に応えるものとなっており、SMRの実用化と普及の加速が期待される。
本契約は、グーグルにとっては人工知能(AI)データセンターの電力需要に対応しつつ、自社の脱炭素化目標を促進する意味合いがある。AI開発を手掛けるほかのテクノロジー企業で、同様の理由から原子力発電への出資を強化している例もある。10月16日には、アマゾンがワシントン州のエナジー・ノースウェスト、バージニア州のドミニオン・エナジー、およびXエナジーとSMRプロジェクトの推進に向けて契約を締結したと発表した。ノースウェストとの契約では最大960MW規模、ドミニオンとの契約では300MW規模の電力供給を目指す。バージニア州には現在も米国のデータセンターの約半分が集中しているとされており、今後も15年間で電力需要が85%増加すると予測されている。中でも、アマゾンは2040年までに350億ドルを投資して同州にデータセンターを設立すると発表しており、こうしたデータセンターにおける電力需要に対して供給を確実なものとする狙いだ(CNBCニュース10月16日)。また、Xエナジーに対しては、これらで活用するSMRの機材開発などを支援する。このほか、マイクロソフトがスリーマイル島原発と20年間の契約を結び、2028年までに再稼働することを発表している(2024年9月24日付記事参照)。
政府も民間を後押ししている。米国政府は2050年までに原子力容量を3倍にする目標を掲げており(2023年12月6日記事参照)、SMRの推進に向けて実証プロジェクトへの支援や燃料サプライチェーンの構築などの取り組みを進めている(注2)。米国エネルギー省(DOE)は10月16日にも次世代SMR開発に最大9億ドルの支援を発表しており、SMRの開発と建設の促進のための官民の取り組みは活発化している。
(注1)カイロス・パワーが開発中のSMRは冷却材としてフッ化物塩を使用するのが特徴。この冷却高温炉(KP-FHR)の開発に当たっては、米国エネルギー省(DOE)の先進炉実証プログラムから3億300万ドルの支援を受けており、テネシー州において実証炉を建設中。実験炉は早ければ2027年に稼働する予定。
(注2)米国環境エネルギー政策動向マンスリーレポート(2024年7月)参照。
(加藤翔一、藤田ゆり)
(米国)
ビジネス短信 9f4e0fc76c0a2f04