パウエル米FRB議長が上院銀行委で証言、民主党は住宅や雇用、共和党は銀行規制や移民に関し質問

(米国)

ニューヨーク発

2024年07月10日

米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は7月9日、連邦議会上院の銀行・住宅・都市問題委員会で金融政策に係る半期の議会証言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を行い、7月5日にFRBが公表した金融政策報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の内容に沿って、経済情勢や金融政策に関する認識を示した。与野党議員からは、大統領選を見据えた質疑が多数寄せられた。パウエル議長の主な発言内容は次のとおり。

(1)経済情勢

米国経済は引き続き堅調なペースで拡大しているが、2024年上半期のGDPは前年の下半期と比べて鈍化。消費は減速しつつも依然として伸びを見せ、設備投資も緩やかに増加し、住宅投資も増加。

(2)雇用情勢

労働市場は、新型コロナウイルスのパンデミック前にみられた、堅調だが過熱していない状態に戻ったことを幅広い指標が示唆。失業率は上昇し6月に4.1%となったが、依然として低い水準。過去数年間の力強い雇用創出は25~54歳の労働参加率の上昇と移民の増加を反映した労働供給の増加によるもの。労働需給のギャップは大幅に縮小し、2019年をわずかに上回る水準に低下。名目賃金の伸びも過去1年間で鈍化。

(3)物価

インフレは過去数年間で著しく緩和したが、依然として連邦公開市場委員会(FOMC)の物価安定目標である2%を上回っている。年初の停滞の後、物価指標は再び2%の目標に向けて控え目に進み始めた。長期のインフレ期待は安定。

(4)金融政策

2023年7月以来、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利のレートを5.25~5.5%に維持し、バランスシートの縮小も継続。こうした引き締め姿勢はインフレに下押し圧力をかけるのに役立っている。インフレ率が2%に向かって持続的に低下しているとの確信が強まるまでは、FF金利の引き下げを行うことは適切ではない。2024年第1四半期のデータはそのような確信を裏付けるものではなかったが、最近のインフレ指標は控え目な進展を示しており、より良好なデータがあれば、この確信を強めるだろう。引き続き(FOMCの)会合ごとに決定を下す。緩和が早すぎたり、過度になったりするとインフレ抑制の進展が停滞したり、逆転したりするリスクがある。同時に、インフレが唯一のリスクではなく、緩和が遅すぎたり、過小になったりすると経済活動と雇用が不当に弱まる恐れがある。政策金利の調整を検討するにあたっては、入手できるデータと変化の見通し、リスクのバランス、金融政策の適切な道筋を慎重に評価する。

質疑応答では、民主党側からは主に(1)価格の高騰や高金利などで住宅が入手しづらくなっていること、(2)最近の労働市場の減速、(3)最高裁判決でシェブロン法理が覆されたこと(2024年7月4日記事参照)に伴う銀行監督行政などへの影響、(4)ドナルド・トランプ前大統領が主張する関税引き上げのインフレへの影響、(5)FRBの独立の重要性に関する質問が出た。(2)に関しては、労働市場の減速を理由にFRBに対し早期利下げを求める意図があったとみられるが、パウエル議長は、労働市場は「減速しつつもなお強い」との見解で、現状が直ちに利下げ開始の理由にはならないとの姿勢だった。

共和党側からは主に(1)銀行に対して資本保有の拡大を求める規制(2023年8月31日記事参照)、(2)移民が住宅や教育、医療サービスのインフレに与える影響、(3)雇用の強さの大部分が財政赤字に依存しているとの見方などについて質問が出た。(2)に関しては、共和党の政策綱領(2024年7月9日記事参照)でも取り上げられた主張だが、パウエル議長は「場所によっては、移民の流入が住宅市場の逼迫に寄与した地域があったかもしれないが、米国全体としてはインフレを押し上げる要因になったとは言えない」として、否定的な考えを示した。

(加藤翔一)

(米国)

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