米税関サミット、輸入審査の迅速化や生成AI活用、グリーン貿易の取り組み紹介

(米国)

ロサンゼルス発

2024年04月09日

米国税関・国境警備局(CBP)は3月26~28日、ペンシルベニア州フィラデルフィアで「貿易円滑化・貨物セキュリティー・サミット」を開催した。同サミットは対面およびオンラインで開催され、輸入審査の迅速化や生成人工知能(AI)の活用、グリーン貿易など米国への輸入における新たな動きが紹介された。

サミットでCBPは、繊維・アパレルの少額貨物の輸入増加について指摘(2024年3月29日記事参照)したほか、食品医薬品局(FDA)とパートナーシップを結び、サプライチェーンのトレーサビリティ向上のための取り組みを発表した。具体的には、グローバル・ビジネスID(GBI:Global Business Identifier)テスト(注1)を拡大する方針だ。輸入通関時に提出が必要な輸入品の製造者や荷送人に関する情報に加えて、関係事業者とその事業内容に関する情報を得ることで、政府や企業が求めているサプライチェーンの透明化を実現させるという。FDAの輸入業務担当のダン・ソリス長官補は「米国に輸入される食品、医薬品、その他のFDA規制品が安全で、かつ必要とする人にできるだけ早く届くようにする」と述べている。FDAの審査に関しては、所要時間が予測不可能などの理由で、審査のプロセスの改善を求める輸入者の声がある。

サミットで、国土安全保障省のアレハンドロ・マヨルカス長官は、国土安全分野における生成AIの活用を紹介した。既に違法薬物のスクリーニングや難民・移民審査を担当する職員の訓練、入国審査と税関の執行業務に生成AIが活用されていると説明(注2)。生成AIを活用することで、西海岸での知的財産窃取に関する捜査と東海岸での規制薬物に関する捜査といった、これまでまったく接点がなかった事件の関連性や犯罪のパターンを見つけ出すことができると期待を示した。

強制労働をテーマとしたパネルディスカッションでも、CBPは輸入者に対しAIの活用を促していると言及した。例えば、1,400ページを超える輸入審査書類の中から強制労働の疑いがある製品に関する書類だけを手作業で選別することは困難だが、AIがこれを可能にすると指摘した。輸入時のリスク評価の面でもAIの活用は有効とした。

グリーン貿易をテーマとしたセッションでは、気候変動による貿易への影響として、パナマ運河の水量の減少による貨物船の遅延やその緊急性が指摘された。CBPが2022年に発表した「グリーン貿易戦略」(2022年7月4日記事参照)では、気候変動に対応するための4つの目標として(1)事業者へのインセンティブの提供、(2)環境関連法・規制の執行強化、(3)グリーンイノベーションへの投資、(4)CBP事業からの排ガスの削減が挙げられており、これらに関する具体的な方針が紹介された。例えば、CBPの国境プログラムでの無排出車両の使用など、排出削減の具体策を講じているという。

(注1)GBIテストは、輸入品のサプライチェーンの透明性を高めるための取り組みで、プログラムに参加する輸入者は事前に、取引主体識別子(LEI:Legal Entity Identifier)、DUNS(Data Universal Numbering System)、企業・事業所識別コード(GLN:Global Location Number)の3つの識別子を税関に提出する。これにより税関業務を効率化し、法令に則した輸入品の迅速な通関手続きなどの便益を見込んでいる。

(注2)国土安全保障省は2024年3月に、AIの業務活用に向けたロードマップと3つの試験プロジェクトを発表している(2024年3月26日記事参照)。

(サチエ・ヴァメーレン)

(米国)

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